好きなんだベイビィ おまけの話

 啓介さん、絶対変に思ったよな。
 自分でも分かるぐらい普段通りに振舞えてない。でも詮索したり追及したりしてこない。
 突き放すってわけでもないしさりげないっていうか余裕っていうか……。
 それに比べてオレ、すげえかっこ悪い。

「啓介…………さん」
 やっぱり駄目だ。
 いくら相手が眠ってるからって無理だ。
「んー……?」
 寝返りを打って抱きしめてくるなんてずるい。
 そんな無防備な寝顔見せるなんて反則だ。
 起きてんのかな、まさか……寝てるよな?
「啓介さん?」
 少し頭を上げて掠れた小声で名前を呼んでみても反応はない。
 寝ている隙に頬にキスをして、起こさないようにそっと頬や唇を指でなぞりながらこの人の寝顔を見られる特権をかみしめる。
「啓介…………さん」
「何……眠れない?」
 返事があったことに驚いて手を引っ込めると閉じられていた目がゆっくりと開いて、今度はオレの頬を包むように手が伸びてくる。
「……起きてたんですか」
「や、おまえのちゅーで起きた。けど……あれじゃ物足りないからもっとして」
 してって言いながらオレに被さってキスしてくるんだ、この人はいつも。本当にずるい。
 オレがしてほしいって思うことは全部見透かされてるみたいに、欲しがるだけ惜しげもなく与えてくれる。
 優しくされると胸がギュッとなる。
「拓海。そんなに力いっぱい抱きつかれたら嬉しいけど動けない」
「あ、すみません」
「どうした。何か不安……?」
 オレの前髪をかき上げて心配そうに見つめてくる顔を無理に引き寄せてキスをした。
 不安なんてないのに。こんな顔をさせたかったんじゃないのに。申し訳なくて情けなくて、恥ずかしい。
「イツキが……」
「ん?」
「オレの友達なんですけど、好きな女の子をいきなり呼び捨てにしだして、もしかしたら付き合っちゃうかもとか言ってて」
「フーン。それから?」
「え、っとそれがその……うらやましいっていうか」
「……女のほうがいいってことかよ?」
「え? や、待ってください、違います!」
 離れていこうとする体を咄嗟に力いっぱい抱きしめて引き止めた。
 戻ってくる体温にほっとする。
「違うんです」
「だってうらやましいんだろ?」
「それは……あの……名前をいきなり呼び捨てできるハートの強さっていうか……オレには真似できないなって」
「おっ、まえなあ。脅かすなよ! ていうかオレの腕ん中で他の男の名前を口にするんじゃねえよ」
 肩とか首筋とか耳とか甘噛みしながら喋らないでほしいって、嫌じゃないからなかなか言い出せない。
「他の男って……あいつは友達ですよ?」
「友達でもダメ」
「も……もしかしてやきもち……?」
「ウルサイ」
 まさか嫉妬されるなんて思ってなかった。それが嬉しいだなんて思わなかった。また胸がギュッとなる。
「オレ……啓介さんが好き、です」
 照れもあって圧し掛かる体を抱きしめた。
 抱きしめ返してくる力と熱にどれだけ安心してるか分かってんのかな。
「今からオレの名前以外口にするの禁止な」
「え……」


 それ以上は唇がふさがれて言葉が出せなかった。

2012-05-07

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