DRIVE ME CRAZY

 本当にいいのかなんてことは啓介は口にしなかった。
 正しくは、口にできなかった。
 あの日初めて拓海に触れたとき、丸め込むようにして手を出したことはどこか啓介の中で引っかかっていた。断られたら冗談で済ませてやろうとすら考えていた。でも拓海は啓介の提案を受け入れた。 断れないような空気を出していたのかもしれないと、魚の骨が喉に刺さったままのような心地の悪さを感じていても、今までずっと気づかないふりをしていた。
 触れてしまえば自分のほうが夢中になってしまうなど、予想もしていなかった。 どれだけ抱き合っても拓海が気持ちを吐露することは決してなく、どこか掴みどころのない存在は出会った頃から変わらない。 それでも何度と触れているうちに拓海の気持ちには薄々気がついていた。意外と雄弁に語る拓海の目に、最近では確信に近いものすらあった。だからこそ帰ろうとする拓海を追いかけることもできたのだが。
 クセになるほど体を重ねたくせに、いつ頃から自分の気持ちが拓海と同じものになったのかは分からない。拓海に告げたとおり初めてのあの日からかもしれない。けれど呆れることに、自覚したのはほんの数時間前だ。 そんな自分を好きだとやっと拓海の口から聞けたのに、自室のベッドで抱き合っているというのに、捕まえた実感は未だに沸いてこない。
 このまま流れで進めてしまっていいのかという葛藤も、ないことはない。 だがまさか拓海も欲しがってくれている今この状況を逃すなんてできそうもなかった。
「緊張してる?」
「……別に」
 その一言に笑みが浮かんだ。拓海のTシャツを脱がすと啓介は胸にかぶりついた。小さく息を漏らす拓海の真っ赤な顔を見上げる。目が合えば慌ててそらし、手の甲をぐっと唇に押し付けている。 舌の先で肌をつつき、乳首に柔く歯を立てた。それでも拓海は懸命に声を押さえようと必死だ。いずれは我慢が出来なくなるのに理性が残るうちはあまりに強情で、啓介もムキになって愛撫する。 声を出せよと言って素直に応える相手ではない。これまでも何度となく繰り返した無言のやりとりだ。頑なに声を堪える拓海から快感を引きずり出したくてたまらなくなる。
 拓海の下半身を押さえつける体の一部に当たる硬度に、啓介は静かに息をのんだ。伸び上がって拓海に口づけながらファスナーに手をかける。首に回される腕の熱さに嬉しくなってひと際深くキスをした。 甘い痺れを残したまま唇を移動させ、拓海のペニスをゆっくりと舐め上げた。途端に仰け反る体を起こし、拓海が啓介の顔を包んだ。
「な、なにしてんですかアンタッ」
 啓介が施す初めての行為に快感よりも驚愕したように戸惑う視線を向けてきた。啓介は舌先を動かすのをやめないまま口角をわずかに上げた。頬に添えられた拓海の手を掴み、口だけで愛撫を続ける。
「やめ、ろ……って、んんッ」
 啓介に両手を塞がれているせいで、拓海は声を抑えることができなくなった。下唇を噛んで堪えようとしても、啓介の舌が敏感な部分を狙ったように刺激する。 音まで立てて吸い付かれ、拓海の腰が勝手に動き出す。
「……ぁっ、すげ、イイ……啓介さ……っ」
 啓介の与える快感に慣らされた体は拒む術を持たなかった。 素直な反応に止めるのが惜しい気もするがアイスキャンディのように裏筋を舐め上げると、啓介は体を起こした。 シーツに体を預ける拓海に覆いかぶさり、赤い頬に軽く口づけた。
「またあとでしてやるから」
 物言いたげな目を向けてくる拓海に啄むようなキスを繰り返し、脇腹に手を這わせた。 震える体を撫でまわしていると、拓海の手が啓介のシャツに伸びてきた。ボタンを外しながら小さな音を立てて首に吸い付いてくる。されるままシャツを脱ぎ、ジーンズの前を寛げた。下着の上から触れて、拓海は少し眉根を寄せる。
「あんま勃ってなくて不満か?」
「……別に、そういうわけじゃ」
 苦笑する啓介の言葉に、拓海は少し戸惑いを見せた。啓介はうつむく拓海の顔を掴んで強引にキスをした。唇を割り開き、舌を絡め取って吸い上げる。 息苦しそうに胸を叩いてくる拓海に構わず、口内を舌で蹂躙した。背中に腕を回し、腰を押し付けてやる。ゴリゴリと擦れ合う雄同士に、拓海はとっさに顔をそむけた。荒く息継ぎをしながら視線だけを寄越す。
「ちゃんと興奮してるよ」
 濡れた唇を中指で拭ってやると、拓海はその指をぱくりと咥えた。驚き固まっている啓介にしてやったりという顔を見せ、指をしゃぶり始める。 手首をがっちりと固定され、止めるに止められず、指先に舌が触れる感覚に啓介は少し目を細めた。指の股から覗く拓海の赤い舌に、啓介はたまらず自分の指越しに拓海の舌をつついた。 解放された濡れた指を拓海の胸元に置き、突起を捏ねるようにくすぐると体を捩って逃げようとする。反対側の胸に吸い付いてやれば抵抗は止み、拓海はまた両手で自分の口元を覆った。 唇を移動させ、腹筋や臍のくぼみも舌で舐める。そのまま下着ごとジーンズを脱がせると反り返るペニスが飛び出した。フッと息を吹きかければぴくぴくと震えて先端から透明なしずくをこぼしている。 期待に応えてやるように口に含み、ゆっくりと上下にストロークを開始すると呻くような声が頭上から聞こえる。
 啓介はひとしきり舐めてから再び体を起こし、ベッドサイドの引き出しからコンドームとローションを取り出した。 その動きを拓海は視線だけで追っている。啓介はゴムを指に装着し、たっぷりとローションをかけてから拓海の秘所へと手を添えた。顔色が変わる拓海の頭を撫でて宥め、優しくキスをしながら声を掛ける。
「ゆっくり入れてくから」
 知識はあっても経験はない。だが自分が怖気づくと拓海はさらなる恐怖を感じることになる。生唾を飲み込み、なるべく顔に出さないようにしながら、静かに指を埋めた。 時間をかけて根元まで差し入れ、少しずつ指の出し入れを繰り返す。拓海が小さく呻くたびに動きを止め、様子を見ながらことを進める。だんだんと指の動きがスムーズになり始めてようやく挿入する指を増やし、同じようにほぐしていく。
「藤原、後ろ向いてみ」
 苦しそうに小刻みに息を吐く拓海をうつ伏せにすると、尻を突き出すように腰を上げさせる。
「こ、これめっちゃ恥ずかしいんですけど」
「我慢しろ」
 素気無く答え、また指を増やして入れていく。拓海の苦しそうな声が漏れ聞こえてくるが、今度は心を鬼にして手を動かす。
 幾分スムーズに出し入れできるようにほぐれてきた頃、啓介は拓海の中から指を引き抜いた。 そこにばかり夢中になって気づかなかったが、拓海は啓介の枕を抱きしめたまま紅潮した顔を半分隠している。肩や首筋に口づけると拓海はほぅと息を吐いた。 なぜだか無性に色気が漂っている気がして、少し萎えかけていたペニスに力が戻ってくる。拓海は後ろ手にそれを掴み、ゆるゆると扱き始めた。
「ッ、……もう欲しい?」
 掠れた声を耳に注ぎ入れると、拓海の顔はさらに赤みを増した。ちらりと視線だけで答え、また枕に顔を埋めた。 きっと無意識だろうが、そんな仕草がたまらないほど愛しく思える。栗色の髪をかき上げ、こめかみにキスを落とす。
「藤原、横向きになってくんね?」
「え」
「このままだと顔見れねーし、キスしにくいじゃん」
 拓海は得心したような表情を見せ、次いで恥ずかしそうに顔を隠しながら体の位置を変えた。 啓介はその間に手際よくゴムを装着させ、ローションをたっぷりと垂らして小さな入口にあてがった。
「じゃあ、入れるぜ」
 息をのむ拓海に声を掛け、啓介も大きく深呼吸をする。呼吸のタイミングを見計らいながらゆっくりと腰を進める。躊躇いがちに伸ばされた手を掴んだ。指を絡めてきつく手を握り、甲に口づけた。 拓海は唇の感触に顔を上げ、フッと笑った。
「そんなビビんなくてもたぶんヘーキです」
「べ、別にビビってるわけじゃねーよ」
 言葉と同時に一突き入れて、ようやく半分ほどが埋まった。圧迫感のせいか呼吸が浅く、汗が浮かんでいる。じりじりと進めながら空いた手を伸ばして頬に触れた。 拓海は目を閉じたまま口角を上げ、啓介の手を握っている指に力を込めた。
「すげぇ、たまんねーよ、藤原」
「あぁ……ぅ、ン……っ」
 思わず残りの半分を突き入れて、拓海の体を抱きしめた途端、拓海が苦悶の唸り声を上げた。 啓介が慌てて体を解放すると、拓海は上半身だけを仰向けに捻ると啓介にキスをした。
「……なぁ、もう動いていいか?」
「ま……、まだです。我慢してください」
「けど暴れ出しそう」
「ダメです、まだ我慢」
 我慢しろと言いながら、拓海は啓介に何度もキスをして、それからぎゅっと啓介を抱きしめたまま動きを止めた。 啓介がああくそと心の中で悪態をつきながらも動きたい衝動を堪えてじっと黙ったままでいると、拓海の鼓動と呼吸がやけに大きく響いた。
「啓介さんの、すげードクドクいってる」
「おまえの中だってすげーぞ」
 汗の滲む肌が触れ合い、熱が伝わる。はりついた前髪をかき上げてやると熱のこもった目で見上げてくる。 何でもいいから話をしていないと夢中で貪ってしまいそうだった。衝動を抑え込み、啓介は言葉を続ける。
「なんか、やっと藤原のこと捕まえたって感じ」
「何スか、それ」
「こんな藤原、オレだけが知ってる」
 拓海はかすかに目を見開いて、そしてゆっくりとほほ笑んだ。珍しい笑顔の不意打ちに、啓介の胸は高鳴った。 額や頬に唇で触れながら、ゆっくりと抜き差しを始める。咎めるような視線を笑ってごまかし、気をそらせるようにペニスに手を伸ばした。
「ごめん、限界」
 少しだけスピードを上げて挿入すると、拓海の膝がピクリと跳ねた。拓海自身も驚いたような顔で啓介を見上げている。啓介はまた同じような角度で拓海の中を行き来する。そのたびに面白いように拓海の体が反応を返した。 中をこするたびに拓海の口から小さく声がこぼれ、顔が朱に染まっていく。
「あっ、あ、啓介さんそこ、……っきから、ンッ」
「藤原のその声、すげー好き」
 薄く開いたままの唇を舌でくすぐり、赤い舌を誘い出した。鼻から抜けるような甘い吐息に煽られていく。余裕がなくなっていくのが自分でも分かっていた。揺さぶる速度がじわじわと上がっている。
「啓介さん、も、っとッ……っく、り」
「もっと、何? 激しくしろって?」
「違ッ……ア!」
 拓海のペニスを片手で扱きながら、何度も肌をぶつけた。 拓海の脚を掴み仰向けに転がすと中が締まってペニスが捩じ切られそうな感覚に背筋がぞわぞわと粟立った。自分の下で喘ぐ男の痴態を前に気遣いも労わりの気持ちも砕け散って、腰骨を掴み、一層激しく攻めたてていく。
「あ、そこ、そこダメだって、啓介さ……やめッ」
 腕をつかんでいた拓海の手に力が入り、小さな痛みが走った。夢中で腰を振っていたところを現実に引き戻され、啓介は腰を引き気味にして動きを止めた。
「悪ぃっ、つい……」
 やっとの思いで動きを止めたにも関わらず、拓海の体は小刻みに震えたままだ。数センチしか入れていないはずなのにどういうことだろうかと拓海を観察しながら思考を巡らせる。 乱れた息を整えようとしている拓海のペニスをいたずらに扱くと背中を弓なりに反らせ、シーツを必死に掴んでいる。両手のひらで体を撫でまわせば気持ちよさそうな声を漏らす。
「痛い、んじゃねえよな?」
 太腿を撫でさすり、小さく腰を揺らしてみればまた膝が跳ねる。
「そこっ、さっきから、なんかヘン……ッ」
「あ、ココ?」
 下腹を左手で押さえ、下から突き上げるように入れると拓海の赤い頬に涙がこぼれた。
「啓介さ、……っ」
 射精もしていないのに拓海の体がぴくぴくと震えている。 拓海は蕩けた表情を隠すこともなく啓介にされるまま体を預けている。潤んだ目を向けられ、はたと思い至った。
「ぁ……もうイキたい」
「何回でもイッていいぜ、ほら」
 男にもあると話だけは聞いたことがあったが、こうも可愛い反応を見せられると止まらなくなってしまう。熱っぽく名前を呼ばれるだけで、たまらない。同じ場所をこすり、幾度となく拓海を絶頂へと押しやっていく。
「っあ、も……出るッ」
 後ろと同時にペニスに刺激を与えれば拓海はあっという間に達して射精し、搾り取るような締まりに啓介も我慢できずに熱を放出した。長い射精感に浸りながらゆっくりと熱源を引き抜いていく。 ぐったりと横たわる拓海の体を清めてやり、隣に寝転んだ。啓介は今までとは違った幸福感と充足感に包まれていた。
「……オレ、い、いんらんなのかな」
 顔を両手で隠しながら、深刻そうな声音で拓海が呟く。見慣れた天井から隣に顔を向けると指先の隙間からちらりとこちらを窺っている。
「……へ?」
 自分でも割と間抜けな声が出たと思った。拓海は耳まで真っ赤に染めて唇を突きだし、同じような言葉を繰り返した。
「だって、あんなの今までなかったのに……、もしかしてオレ変態なんですか?」
「はは。新しい扉開いちまった?」
 啓介の見せる笑顔にいまいち納得できていないような表情の拓海の体を抱き枕のように抱え込みながら、髪をくしゃくしゃにかき混ぜる。 自分でも矛盾しているとは思うが、もっと早くにこうしていればよかったと思わずにはいられない。今まであんな姿を見損ねていたとは、残念という言葉で片付けるにはもったいなさすぎる。
 啓介は拓海に覆いかぶさり、両手の隙間から見えている鼻や唇にキスを落とした。隠されていた表情が少しずつ現れてきて、両手が首に回された。角度を変えて唇を重ね、舌を絡める。
 拓海とのキスは気持ち良い。まだ拙いとはいえ、クセになるのは抱き心地だけではない。どこもかしこも甘い気がして、際限なく求めてしまう。
「ん、……ふ」
 髪に指を梳き入れられ、頭を撫でてくるような手の動きに口元が緩んだ。
「オレとの相性がサイコーなんだよ」
「えー、そうなのかな……」
 そうそう、と軽く言いながら拓海の体をうつ伏せにし、尻の間に復活を遂げたペニスを挟むとローションを垂らして滑らせる。背中にキスをすると拓海は小さく声を上げて枕を抱き込んだ。 肩やうなじに口づけながら腰を動かすとくちゅくちゅと音が立った。
「えっ、ま、……またするんですか?」
 耳まで真っ赤にしながら振り向く拓海に何も答えずシーツと体の間に差し込んだ手のひらで胸を撫でまわす。入口にピタリとつけて動きを止めると、拓海は息をのんだ。
「好きだぜ、藤原」
 ゆっくりと熱塊を埋めながら耳元で囁く。枕を掴んでいる手に手を重ねると指を絡めて握り返してきた。耳の中で舌を遊ばせ、空いてる片手で胸の突起をつまみ上げる。 啓介はわざと焦らすように時間をかけて抜き差しを繰り返す。二度目だからか、ゴム越しでさえ拓海の内部が誂えたように啓介を温かく包み込んで蠢いている。あまりの気持ちよさにかつてないほど早く達してしまいそうだとはさすがに知られたくはない。
「ゆっくりするからさ、いいだろ?」
 優しさを装い、動きを止めて背中から抱きしめる。挿入してから言う言葉ではなかったかもしれない。うっとりした顔で頷く拓海に、少しばかり良心が痛んだ。
「けーすけさん、……キス」
 拓海からの珍しい注文に啓介はかすかに口角を上げ、緩んだ口元にそっと触れるように唇を押し付けた。顎を引いて見つめると、物足りなそうにしている。指の背で唇に触れると、軽く吸い付いてきた。
「もっと?」
「……もっと」
 素直な言葉に嬉しくなって、枕に隠れていない側の顔中にじゃれつくようにバードキスを散らした。くすぐったそうに笑う顔が可愛いと思った。 そのまま耳や首筋までキスを繰り返し、耳の後ろや髪に鼻先を差しいれて汗の匂いを吸い込む。上体を起こし、白い背中を見下ろしながら律動を再開すると征服感が沸いてくる。ちらちらと見え隠れする耳が赤く、思わず噛みついしまう。
「い、た……ぁ、あっ」
「藤原、ごめん藤原、止まんねぇっ」
 勢いに押されて逃げてしまわないように力を込めて目の前の体を抱きしめ、肩口に額を押し付けて腰を振りたくる。 絶え間なく上がる嬌声にさらに煽られ、啓介は拓海を気遣う余裕すらなく限界を迎えた。二人分の体重を受けてマットが沈む。
 息を弾ませながらハッとして、組み敷いた体を上向かせる。
「ごめ、……大丈夫か?」
 声を掛ければ視線が動く。意識はあるようだ。しかし拓海は啓介の問いに答えようと何かを発しているが、掠れて音になっていない。視線をずらすと、思った通り拓海はまだ達していなかった。 啓介は自己嫌悪に顔をしかめ、拓海の両脚を大きく開いてそこに顔を埋めた。
「うあ、……ぁや、けーすけさっ、オレはいい、から……」
「バカ言うな。藤原もちゃんと気持ちよくなきゃ意味ねえんだ」
「違……、ちゃんとイッて……る、から」
「でも出したいだろ」
 制止しようと伸びてきた手を取り、拓海の震えるそこを咥えこんだ。もう限界はすぐそこに来ているような硬度と熱に、啓介は手加減せずに刺激を与える。握った手と内腿に同時に力が入り、喉奥に苦みが広がった。 背をしならせて達した拓海が乱れた息のまま啓介に視線を止めた。
「あのっ、ソレ、出して、出してくださ……あッ」
 八の字に眉を寄せた拓海が言い終わる前に、嚥下した。喉が上下する様子を目の前の恋人は呆然と見つめている。 口元を押さえながら正面に座ると、拓海が真っ赤になりながら起こした体を震わせていた。
「信じらんねぇ! 何考えてんですか、あ、あんなもん飲むなんてッ」
 啓介も自分自身の行動が半ば信じられずにいたが、飲めてしまったのだから仕方ない。コンドームの口を結びながら、拓海が投げかける文句の数々を受け流す。
「シャワー浴びよ」
 裸の腰に手を回して抱き寄せると、放置していた洗濯済みのTシャツを拾い上げ頭からすっぽりかぶせた。体格がそこまで変わらないせいで裾が思いのほか短いが、大事な部分は隠れるようだ。 ひとり頷き、拓海の手を引いて部屋のドアへと向かう。
「は、え、いっ、一緒にですか?」
「ひとりで立てねえだろ?」
「平気、オレ平気ですって」
 支えている腕をわざと外すと拓海はへなへなとその場にくずおれた。目の前にしゃがんでにっこり笑顔を見せると、拓海は引きつった顔を返してきた。
「な?」
 笑顔でそれだけ言うと強引にバスルームへと連れだした。拓海は必死に何かを訴えかけているが、啓介はこれからどうやってこの恋人を可愛がってやろうかということばかりを考えていた。

2015-03-17

サイト3周年記念のリクエスト。
「『WANT ME』の続き、お初編」でした。リクありがとうございました! back