Gimme
寝ても覚めても頭の中はあんたのことばかり。
あんたがいなけりゃ動けない。なのに傍にいればロクに顔も見れなくて。
「我慢してないで、電話しろよ」
我慢して我慢して、耐えきったそこに何が残るんだよ。
ただこのボタンを押せばいいだけ。
あんたはそう言うけど、そう簡単にはできないよ。オレだって気が長いほうじゃないし、我慢なんてしなくていいんだって頭では分かってるんだけど。
「結局おまえがつらい思いするだけじゃねえか」
「だってまさかこんなにとは思いませんよ」
少しでも動けば体が悲鳴を上げて仰向けにもなれない状態で、うつ伏せたまま枕に顔を埋める。
「これでもセーブしたつもりなんだけどよ」
「冗談でしょ」
「だから我慢すんなって言ってんだよ」
「啓介さんこそ、ちょっと意地になってたじゃないですか」
「そりゃ、おまえにもオレを欲しがってほしいって思うからだろ」
直球な言い分に、言葉がなくなってしまう。
そんなこと、オレから言えるわけないじゃないか。
「おまえのことばっか考えちまって、どうしようもねえんだよ」
「……啓介さんが?」
「ンだよ、悪いか」
信じられないと視線で言えば尖らせた唇が背中に吸い付いて、赤い跡を残す。
「ん……っ」
薄暗い部屋の中、見えない動きに、さらに過敏になってしまう。
「も、無理です」
「分かってる、大人しく寝るから……安心しろ」
そう言って同じように枕に顔を埋める。安心しろ、という言葉は自分に言い聞かせたのか両手の拳をぎゅっと握って、明らかに何かを耐えている。分かってしまうがゆえに、声をかけずにいられない。
「啓介さん」
「……なんだよ」
「オレ思うんですけど、そうやって我慢するせいでたぶん……暴走しちゃうんじゃないですか?」
「だからおまえは自分のためにも我慢すんなって言ってんだよ」
目を閉じてさっきと同じ言葉を繰り返すだけで、こっちを見ようともしない。
「そう言う啓介さんだって、我慢してるじゃないですか」
「そりゃそうだけど」
自分から求めるだとか、高い高いハードルを目の前に置かれた気がして、そのハードルを軽く飛び越えられるのは自分ではないということはもちろん理解している。
「だったら少しずつ発散してるほうがいいんじゃないかなって……思いますけど」
その言葉に目を開けて寝返りを打つと、片手を伸ばして髪に触れてくる。撫でながら、指先は耳たぶに移動する。
「それができたら苦労はねえよ。けどちょっと触れたらもっと欲しくなんだよ」
暗闇に慣れた目でまっすぐに見つめられるとそれ以上何も言えなくなってしまう。我慢をしてもしなくても、結局行き着く結論は同じなのだ。
鈍い痛みをこらえて上半身だけ覆いかぶさると、驚いて目を見開いたままの顔に構わずキスをした。
すぐに応える舌に吸い付いては、形のいい柔らかい唇を何度も味わう。名残惜しく唇を離し、透明な糸を引いて濡れたそこを指でなぞる。
「あのさ、啓介さん……」
「……ん?」
「オレ……、オレも、啓介さんも同じなんだなって……その……嬉しいって思っちゃって、すいません」
言うだけ言って、またキスをする。何度も何度も、唇が腫れてしまうほどに触れ合わせては舌を絡める。頭の中では、このままでは止められなくなるとどこか冷静な自分がいるのも分かるのに、
もっと欲しくて、もっと自分を強く刻みつけたくて、ついには腰の上に跨ってしまった。
「まじで我慢効かなくなるだろうが…これ以上煽んな」
「あ……、さわ、ん……な、ぁっ」
反応し始めた先端を擦り合わせながら、ひとまとめに握り込んで緩急をつけて動かされ、震える膝が崩れないように両肘をついて甘い刺激に耐える。
両手でシーツを握りしめるとすぐ傍にある顔が寄せられ、舌が耳を這う。
電流が体中を駆け抜け、だらしなくこぼれる唾液を舐めとる舌に必死に応えるも、塞ぎきれない唇からはしきりに声が漏れてしまう。
「う……ぁ、はっ……あ」
「ク、ふ、じわらっ」
「けぇすけさ、ぁ、も……ッ」
大きな手の中に吐き出したそれはもう何度目か分からない。数百メートルを全力疾走した後のように呼吸が激しく乱れて、脚も指先も感覚がなくなって、今度こそ限界だと呟きながら上下する胸の上に突っ伏して目を閉じる。
ぐるりと体が回ってシーツに転がり、腹周りや内腿のべたつきを拭うウェットティッシュの冷たい感触に反射的に体が竦むものの、恥ずかしさや照れよりも、もう目を開けることさえ億劫でされるがままに身を預けた。
「起きたら風呂な」
「……ぁい」
音にならない声を返すと背中から抱きしめられ、包まれるぬくもりに意識が遠くなっていく。
寝ても覚めても頭の中はあんたのことばかり。
あんたのせいで、動けない。
だけど、もっと傍に、深く、奥に。
2012-10-26
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