HEAT PAD(カイロ)

 窓の外は雪が降っていて。
 オレの部屋にはエアコンなんて気の利いたものはついてなくて小さな電気ストーブの赤い光だけが、薄暗い部屋に灯っている。

 少し汗ばんだ熱くて大きな手のひらが何度もオレの裸の背を往復してその腕の重みとわずかな動きに合わせて下腹部から湿った音が聞こえる。 啓介さんはオレを自分の上に跨がせて、いい顔を見せろと言ったけど冗談じゃない。 誰が動いてやるもんか、という意地ももちろんあるけど、体温の高い啓介さんの胸が気持ちよくて、じっと抱きついている。
「藤原、いつまでそうしてるつもりだよ。そんなんじゃ、いつまでたってもイケないだろ?」
 半ば呆れたような声音なのに、オレの中にいる啓介さんは全然衰える気配もなくて時々小刻みに下から突き上げたりして、意地悪く挿入を繰り返してくる。 寒い部屋なのに啓介さんのこめかみやおでこにはうっすらと汗が浮かんでストーブの赤い光がその雫を弱弱しく照らしている。
「あ、だって……いやだ……」
「何がいやだよ。もしかしてオレの耐久時間でも試してるわけ?」
「ちがっ……う……あっ」
 また下から突き上げて、からかうような笑みを漏らす。
「それとも、朝までずっとこのまま入れといてやろうか?」
 背中を這っていた熱い手が、ぎゅっとオレの体を抱きしめるから、つながりがさらに深くなって、オレの奥のほうまで侵入してくる。
「うあ……っ」
 中の敏感なところを啓介さんにこすられて、ついにオレは体を起こしてしまった。
「可愛いぜ、藤原」
 露わになったオレの体に、エロ親父みたいにねっとりとした視線をよこして啓介さんはベロリと悪戯っぽく舌舐めずりする。その顔にさらに羞恥心があおられる。 いやいやと首を横に振ってみるけど今まで許されたためしはない。
「ほら、手伝ってやるから動いてみ、好きなように」
 オレの腰を持ってかき回すようにグラインドさせた。中にいる啓介さんをかき回したのか、中にいる啓介さんでオレをかき回したのか。 腹に付くほど反りかえったオレ自身にも指を絡めてやわやわと扱かれる。
「あぁっ……あっ……」
「いきたくねえの?」
「だって……」
「だって、何?」
「お、終わったら……帰っちまうでしょ……だから……」
 まだいきたくないけど、じれったい刺激に堪えかねて正直に白状する。顔が赤くなるのも涙目になるのも計算じゃない。

 啓介さんと会うのは今日で2週間ぶり。
 オレの仕事帰りに待ち伏せしていた黄色いFDに押し込まれて、気取らない居酒屋で食事をして秋名湖あたりをちょっとドライブしたあと、帰ろうとする啓介さんをうちに招いた。 オヤジは近所に飲みに出ているようで、居間に電気がついていなかったからだ。
 自分から誘うのは本当に恥ずかしかったけど、こうでもしないと啓介さんはキスしかしてくれない。 オレだって男だ。たまには帰したくない、エッチしたい気分にだってなるんだ。
「藤原……おまえ、その顔反則。可愛すぎ」
「あ!」
 啓介さんは体を起こして、反対にオレの体を押し倒して上にかぶさってきたと思ったら、どんどんとオレの中に侵入してきて、息もできないほど口をふさがれて激しいキスを受ける。 求めていた刺激が再開されて、限界近くまで張り詰めていたオレと啓介さんはすぐにいってしまった。

 もっとめちゃくちゃにして、2人でトロトロになって、オレにメロメロになればいいのに。

 風呂上がりの啓介さんは、ストーブなんかよりずっとあったかくて気持ちいい。
 いつもよりぐっすり眠れるんだ。

「……おまえ、本当はこっち(安眠)が目的だろ」

幸か不幸か、オレにはそんな声は聞こえてない。

2012-02-03

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