ぼんのう
大晦日に自室に籠ったままで年を越すのは、覚えている限りでは初めてかもしれない。
そしてこんな形で年を越すのは、間違いなく初めてのことだ。
いつもなら父親と一緒に居間のこたつでテレビを観ながらの年越しだった。それが今年はなぜか町内会の寄り合い仲間と年越し旅行に行くと言いだして、
そのことを初詣の誘いのために電話をしてきた啓介にぽろっと話すと、電話口の向こうで何でもっと早く言わないんだとものすごい剣幕で怒りだした。
何でと言われても息子の自分ですらいきなり聞かされたことなのだから仕方ないでしょうと言い返すと、表情が見えないのにきっとぶすっとした顔でむくれているだろうと分かる声で、
「今から行く」とだけ告げて通話は途切れてしまった。
近くにいたのかそうでないのかは分からないが、日が暮れ始めた頃に啓介は拓海の前に立っていた。
不機嫌に思えた啓介の表情もすぐに崩れて、何をするでもなくただこたつでミカンを食べながら何気ない会話を交わし、一緒に風呂に入ろうとする啓介をなんとか閉めだして風呂を済ませ、
次に入った啓介が風呂を使っている間に準備をしておいた年越し蕎麦を2人で食べて、年が明けるのを待ちながらゆったりと過ごす。
「啓介さんと一緒に年越しなんて、なんか変な感じです」
「1人ですよ、なんて言うからマジで焦ったっつーの。明るいうちに電話して正解だったぜ」
「……年越しは友達と大勢で集まるのかなって思ってました」
「おまえが暇なら誘うつもりだったんだけどひとりだって言うし……だいたいそういうの、あんま好きじゃねえだろ?」
初対面の人間と早々に打ち解けられるほど社交的ではないし、喧しい集まりも、本音を言えばたいして好きではない。
「……え、まあ……」
うつむきながら答えると、啓介の指が伸びてくる。
「わ……っ」
「だったら2人でいたらいいんじゃねって思ってさ」
耳たぶに触れた指が熱くて、肩を竦めると近づいた啓介に口づけられる。啓介とのキスはクリスマス以来で、舌の感触に思わず目を閉じた。それを合図に両頬を包まれキスがさらに深くなる。
「……ん、……ッ、待、ってくださ……」
このキスで啓介が止まらないことは理解している。それでも待ってほしいと言葉がこぼれる。啓介の唇は休むことなく拓海を求めて、
それに引かれるようにキスに応えながらその先を想像してしまい、体がじわじわと熱を持つ。
「あ、……は」
頭を固定されたまま逃げられず、唇が触れたまま啓介の胸をゆっくりと押し返して足りない酸素を求める。
「部屋、行こうぜ」
まっすぐに見据えられ、無言で頷く。啓介は手際よくこたつもテレビも電気も消して、まるで自分の部屋へ向かうような足取りで拓海の手を引いて階段を上る。
冷えた部屋は吐く息も白く、すぐに電気ストーブのスイッチを入れる。オレンジ色の光がゆっくりと灯されていく。
振り向きざまに抱きしめてくる腕の力や自分を包む体温がいつもより強くて、高くて、背中に回した腕に少しだけ力が入った。
服を脱いでまだ冷たい布団の中に入ると、啓介は寒い寒いと言いながら布団をかぶり、ぴったりと寄り添うように肌を合わせて拓海を抱きしめる。
「おまえ、よく平気だな」
「……オレの部屋だし」
慣れているだけで平気なわけではないが、言い終わると同時に口を塞がれ、より引き寄せられた。
熱を持ち始めた体は素直に反応を返して、啓介は嬉しそうに微笑んだ。
「今年は素直になりますよ」
「今年……ってもうすぐ終わるじゃねえか」
「だ……、も、寒いんだからするなら続きしてくださいよ」
片手で赤い顔を隠しながらそう言うと、啓介は布団をかぶり直して首筋に唇を落とし、肌を這う舌はゆっくりと下がっていく。胸の突起を口に含んで強く吸い、舌先で捏ねてはまた吸い付く。
下着だけは身に着けていた拓海の下腹部に手を伸ばし、ウエストの隙間から指を差し入れるとその茎をやんわりと握って上下に扱くと薄い布地が先端に触れ、にじみ出る液体が染み込んでいく。
施される愛撫に息が荒くなって、思わず指を噛んだ。啓介はその手を取って薄く開いた唇に口づけると、逃げる舌を絡め取る。
「んん……ッ」
啓介の指先が後孔へと触れ、ゆっくりと埋め込まれていく。
「い……っ」
「あ、わりぃ」
啓介は布団から顔を出して部屋を見回し、机の上にあるハンドクリームに目をつけた。ないよりマシかとそれを指にたっぷりと取って、再び目的の場所へと埋め込んだ。
「痛くねえ?」
「う……ぁ、はい」
気遣う声に息を吐きながら答え、ぬるぬると内壁を滑る指の感触に耐える。拡げるように掻きまわされ、反射的に仰け反るとまた啓介の舌が絡み、
指先が内壁の敏感なポイントを刺激するのと同時に舌先が上顎を掠める。くぐもった声が啓介の口の中に消え、ゆっくりと離れた唇の間には唾液が糸のように伝う。
拓海の入り口に先端をあてがい、片脚の膝裏に手を入れて広げると啓介は様子をうかがいながら腰を進めた。
「く……ッ」
圧迫感に体が強張り、啓介の侵入を阻むように締めつける。
「ぃ……っ。おい、ちょっと……力抜けるか?」
「や、……ってます、けど、……ッ」
何度経験しても、迎え入れるときはいつもこうだ。分かってはいても、体がどうしても固くなってしまう。
大きく息を吐いて緊張を解こうとしても、なかなかうまくいかない。
「ひ……んッ」
すっかり萎えてしまった部分を啓介の手が包み、くびれた部分を指の腹で引っ掻かかれるとつい声が漏れる。
意識がそこに向いた隙に啓介はまた腰を進めて拓海の中に侵入していく。
「あ、……はぁ」
「大丈夫か?」
寒かったはずの部屋で、汗が浮かんで額にはりついた拓海の前髪を払いながら、啓介も大きく息を吐いた。
「……はい」
自分の中にいるのを感じながら、目の前の啓介に手を伸ばす。啓介はその手に応えるように上半身を屈めて拓海の体を抱き起こした。
「わ、ちょ……ッ、啓介さん?」
「ちょっとこのまま……もうすぐ年明けるから」
繋がったまま胡坐をかいて正面から抱き合うと、啓介がほんの少し見上げる位置に拓海の顔が来る。キスがしやすく、繋がりが深くなるからと啓介はこの体位を好む。
拓海はこれ以上沈み込まないように啓介の肩に腕をかけて体を支え、両脚を腰に回した。耳元でふっと笑った啓介は腰の動きを止めたまま、拓海の額や瞼、頬に口づける。
「あの……、啓介さん、本当に年明けまでこのまま……?」
「ああ。ちょっと我慢な」
焦らされているようなもどかしさに、知らず腰がゆるゆると動く。啓介の腕はまるで逃がさないとばかりにしっかりと拓海の体を抱きしめ、時折尻を掴んでは小刻みに突き上げる。
抱き合ったまま枕元の時計に目をやると、もうあと十数秒で年が変わる。あと5秒、3秒……頭の中で数えているうちに啓介に顎をすくわれて口づけられた。
「あ……、ぁ……ん」
深く絡めた舌が音を立てて離れていく。間近にあるその顔に視線を合わせると笑みを見せ、ぎゅっと抱きしめて耳元で囁いた。
「明けましておめでとう」
「……明けましておめでとうございます」
およそ最中には似合わないお決まりのあいさつを口にして、今年もよろしくと笑いながらまたキスをした。唇から首筋、鎖骨へと移動する啓介の舌に、焦らされ、求めていた熱が再び体の芯に灯る。
拓海が求めるまま、啓介は律動を再開した。
2013-01-07
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