All I want is you.

いきなり藤原とうふ店に現れた啓介の手には、ゲーム機の本体と数枚のソフト。
言葉にだけ遠慮を浮かべ、ずかずかと入り込んで居間のテレビにセッティングを施している。
事態を飲み込めてない拓海はただそれを黙って見ているだけで、
そんな拓海を尻目に手早く作業を終えた啓介がコントローラーを差し出した。

「これ、やったことある?」

画面に映し出されているのは、以前にイツキの家でやったことのあるレースゲームだった。

「え、まあ何回かは…」

その言葉に笑顔を見せると嬉々として車とコースを決め、拓海にも目だけで促した。
よく分からないまま、拓海が選んだのはGT-R。ランエボとインプとも迷って、結局スカイラインにした。

「おまえな、オレのGTR嫌いを知ってての選択かよ?」
「そんな、たまたまですよ」
「パワーだけの車なんざぶっちぎってやらぁ」

決して大きいとは言えない画面の中、二台の車がスタートする。宣言通り先行を取ったのは啓介。
後を追う拓海も離されないようにぴったりとついていく。
流れる景色もステアからの振動もシートに擦れる背中の感触も何もない、
ただ現実感のない、画面の中だけのバトル。
啓介の意図が分からず、ただ車を走らせる。

「あ、啓介さん、ぶつかる…ッ」

スタートしてから四つ目のコーナーで、早々と啓介がガードレールに突っ込んでクラッシュした。
まったく操作する気のないような走り方に何事かと隣の啓介を見ると、しっかりと視線がぶつかる。
その顔からは表情が消え、ただじっと拓海の目を見つめている。

「え…」
「うん…やっぱオレ、おまえが好きだ」

画面の中で今度はGT-Rがクラッシュする。その音が耳に入っても、視線を戻すことはできなかった。
啓介の膝が畳の上を滑り、拓海の腕を捕らえた手は強引に体を引き寄せる。
きつく抱き込まれ、拓海の手からコントローラーが落ちる。
画面の中ではカウントダウンが始まる。
カウントに合わせて、唇が重なっていく。

「…好きだ」

CONTINUE OR NOT.

「啓介さん」
「続き、していいか?」
「…あ、の…えっ…と…部屋で」

GAME OVER.

2012-07-30

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