テリトリー
「畳って、いいよな」
たいして広くもない部屋で長い手足を大の字に広げられると
スペースが足りないんじゃないかと思う。
読みは当たって、伸ばした腕の先がベッドの縁に乗せられている。
そのベッドの上でうつ伏せになりながら雑誌を読んでいる拓海に
意識して話しかけるわけではなく天井に向かって呟いたような声音だった。
視線を動かさないままぼんやりとした声に同じようにぼんやりと答える。
「和室くらい…啓介さんちにもあるでしょう?」
「あるけどさ、なんか居心地悪いっていうか落ち着かねーんだ」
「そんなもんすかねえ」
畳の部屋なんてどこも同じじゃないのか。
高橋家の和室なら床の間に値段の見当も付かない壺や花瓶が飾られていたり
掛け軸が掛かってたりどこかの旅館の離れみたいに
必要なもの以外置いてなくてそわそわしてしまう、というのは
他人の自分であれば理解もできるけれど。
「それに…」
畳が擦れる音がして、読んでいた雑誌に少し影が落ちる。
振り向くと起き上がった啓介がベッドの上に自分の腕を乗せ、
そこに顎を置いてすぐそばで拓海の顔を見上げている。
その目はまっすぐに拓海に向かって、一点の曇りもない。
「おまえがいねえもん」
手に力が入り、繰ろうとしていた紙がくしゃりと歪む。
変わらず見つめ続ける瞳に誘われるように、唇を合わせた。
楽しそうに、笑うように受け止めて、唇を食む。
それすら、にくらしい。
あんたは知らないんだ。
あんたが帰った後この部屋がどれだけ広く感じるかなんて。
自分の部屋が、こんなに寂しさを感じる場所になるなんて。
だから願わくば、少しでも長く。
2012-08-07
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