夜が明ける前に
珍しくいやな夢を見て夜中にふと目が覚める。
額に浮かぶ汗をぬぐって起き上がると
隣で規則的な呼吸を続ける存在にほっと息を吐く。
背中を向けられているのが寂しいなんて言うと
寝てるときのことまで覚えてないなんて膨れて
布団の中に戻ってそこにある背中に額を寄せると
するりと手が伸びてきて腰の辺りに落ち着いた。
きっと無意識に。
腕を伸ばして目の前の体を抱きしめると、
自然と手を寄せてそっと、ただそっと肌を撫でていく。
安心していいんだと言われているようで
ますます力をこめてその温度を確かめる。
その熱に不安が溶けて、また眠りに落ちていく。
まだほのかに暗い部屋で迎える朝、
目が覚めても変わらずそこにいる温もりに
無性に泣きたくなる日があって、それがなぜなのか
嬉しいからか切ないからなのか解らない。
ただ幸せだと思える瞬間でもある。
後ろから抱きしめるとやっぱり手が伸びてきて
存在を確かめるように動く手のひらが温かくて
そっとすくい上げて指先に触れる。
意識が浮上したのかその手を取り上げられて、
寝返りを打って正面から抱きしめられる。
「あったけぇ…」
耳元でささやく掠れた声に
吸い寄せられるようにキスをする。
「すきだ」
夜が明ける前の、こんな瞬間。
2012-08-20
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