たてがみ

休日に久しぶりにイツキと出かけたゲームセンターで取った小さなぬいぐるみ。
別に欲しかったわけじゃないけど、目についてすぐに浮かんだあの人の顔。
黄色くてふわふわで、でもつんつんしてて、ついでに目つきもちょっと悪いやつ。
思いのほか高くついたけど、連れて帰って、枕元に置いてある。

そいつはたてがみがあって、寝ているときにときどき頬をくすぐる。
こそばゆくて思わず抱き寄せると、耳元で「ぐえ」と苦しそうな声を上げた。
相手はぬいぐるみだし声なんか出るはずがない。
目を開けてみたらそこにいたのは本物で、夢だと思って自分の頬を思い切りつねってみた。

「……」

夢じゃない。
言葉が出せずにそこにある顔を見つめていると、そっと近付いて優しくキスをする。

「ちょうど親父さんと下で会ってな。飲みに出るからって鍵預けられたんだ」

たぶん疑問が全部顔に出ていたんだと思う。
聞いてもいないのに説明をしだして、手の中の鍵を見せる。

「なんで」
「いるのかって?」

頷くと、長い指が耳たぶを弄ぶ。

「会いてえから来たに決まってんだろ」

優しかったキスが噛みつくような激しいものに変わって、息苦しさに身を捩ると
枕元にいたあいつがバランスを崩して転げるように顔の間に割り込んで来た。
大きな手で不服そうに鷲掴んで、ベッドの端へと戻す。

「何だよコレ」
「…こないだゲーセンで取ったんですよ」
「はー?」
「つんつんしてるとことか、このちょっとワルそうな目つきとか啓介さんみたいでしょ」

端に追いやられたそいつを片手で抱きあげて鼻先へと口づけると
少し強引に取りあげて、今度はベッドの脇へと下ろしてしまった。

「オレが先」

笑いながら優しいキスをした。

2012-09-22

back