うそつき
オレは何も望まないし何も期待しない。
みんながいるのにオレだけ話しかけられたからって
優越感なんか抱かないし、人前で肩なんて組まれて
引きずるように物陰に連れていかれても正直迷惑なだけなんだよな。
「悪かったって藤原」
「何の話ですか」
「こないだ、ドタキャンしちまったことだよ」
「別に何とも思ってません」
「うそつけ」
「うそじゃありません」
怒ってなんかないし拗ねてもいない。
「本当、マジで悪かった」
「だから、別に怒ってませんって」
「お詫びに飯奢るし、なあこれからヒマか?」
「ヒマ…じゃないです」
「マジかよ、いつなら空いてる?」
「しばらくは忙しいです」
「じゃ…今日逃したら次いつ会えんの?」
しばらく会えないからって寂しいだなんて思わないし
会いたいだなんて絶対言わない。
「なあ、マジでごめんって」
「だから…」
「こんな状態で運転したらオレ事故るかもしんねえ」
情けない声でとんでもないことを言いながら
抱きしめてくる啓介さんのことなんか好きじゃない。
どっちかっていうときらいだ、大きらい。
「オレが悪かったよ。二度としねえ。頼むから機嫌直して」
オレは流されないしほだされない。
甘えないし心も許さない。
「今度から絶対おまえのこと最優先にするし」
「絶対とか、先のことなんかわかんねえのに」
「そうだけど、でも絶対、できる限りそうする。約束する」
「そんなこと頼んでなんか」
「オレの全部、おまえにやるから」
啓介さんなんか、きらいだ。
「もう全部、とっくにオレのもんでしょ!」
啓介さんなんか、きらいだ。
抱きしめる腕の強さとか体の熱さだとか
ムカつくくらいキスがうまいとか
全部、あんたが教えたものなのに。
「…ははっ」
「なに、何で笑うんですか」
「いや、ごめん。そうだなとっくに全部、おまえのもんだよ」
「…そ、ですよ」
「あーやべえ。な、オレ本当に反省してんだぜ?」
「え」
「だからさ、ちゃんと証明させてくれよ」
そんな嬉しそうな顔した啓介さんなんか。
2012-09-29
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