据え膳

今思えば最初から、秋名の峠で突然現れたユーレイに負けてから
オレはもうおまえに捕まってたんだ。

寝ても覚めてもおまえのことばっか考えてて
勝ちてえって、最初は本当にそれだけのはずだったのに
いつの間にか何やっても最後には全部おまえにつながってて
ナイトキッズとの交流戦のときだってそうだ。
まさかおまえが見てるとあっちゃ、何が何でも負けられねえって
もともと負ける気なんかさらさらなかったけど余計気合い入ったし
あのあとケンタとのバトルだってあっさり受けちまいやがって。
この一年の間はおまえとのバトルはおあずけだけどさ。
あのときだっていつだって、本当はオレがおまえとやりたかったんだ。

こんな無防備な寝顔見てると、あんなキレた走りするだなんて
いまだに信じられねえって気もするんだけどな。
つくづくギャップのある男だって思うよ。

「何者だよ、おまえ」
「…ん…啓介さん?」
「あ、わり、起きねえと思ったんだけど」

さすがに寝入りばなにキスすりゃ目が覚めるか。

「…眠れないんですか」
「オレはおまえと違って繊細なんだよ」
「なんですか、それ」

眠そうな顔で、瞬きのスピードもびっくりするくらいゆっくりで
なのに射抜くような視線に目が逸らせない。

「クーラー、…強すぎじゃないですか?」
「え…寒い?」

寒いかって聞いたのになんでそんな顔赤くすんだよ。
こんな時に意識させんじゃねえよ。
同じ部屋に二人きりで、しかも浴衣だぜ?
羽織ったまんま、帯もしたままはだけさせてえとか
いつもはベッドだけど和室で布団ってのもいいな、なんて考えを
どんだけ苦労して頭の隅に追いやったと思ってんだよ。

「なあ…そっち行っていい?」

2012-10-17

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