時雨

雨粒がフロントガラスの上を走る。
それを見て、何を思うか。
その粒が零れる様が、何を思い出させるか。

アスファルトを色濃く変えた雨は、予報では今夜一晩降り続くらしい。
アクセルを抜いて、路肩へと愛機を寄せる。
暗い闇の中でヘッドライトは道の先を照らし、落ちる雨が白い糸のように反射する。
絶え間なく落ち続ける滴をぼんやりと眺めていると、助手席にいた拓海が身じろいだ。

「あ…オレ、寝ちゃって…すみません」

呟く顔をインパネの灯りが薄く照らす。
啓介の送る視線に照れながらうつむいて、鼻の頭を指先で掻く。

「あ、降ってきちゃったんですね」
「わがまま言っていいか」
「え…?」

シートベルトを外し、体を寄せる。
そのまま頬に手を添えて、形の良い口唇が拓海に触れた。

「…帰したくねえ…」

触れたまま囁いて、角度を変えて深く口づける。
ガラスを叩く雨音が次第に強くなって、こぼれる吐息や水音をかき消していく。
膝の上で握っていた手をゆっくりと持ち上げ、啓介の頬を包む。
言葉とは裏腹な優しいキスに蕩かされていく。
名残惜しそうに離れる啓介を追って、シートから背を浮かせ拙いキスを送る。

「藤原…?」
「やめないでください」

驚く顔を引き寄せ、首に腕を絡めた。
口唇に触れたままこぼれ落ちた言葉に、周りの音が消える。

「雨が…止むまでは…」

2012-11-13

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