ムカつく

啓介さんがオレにキスした。
突然で、わけが分からなくて、驚いたまま固まってたら

「目くらい、閉じろよ」

なんて言う、その声や笑顔が余裕綽々って感じでなんか頭に来る。
だけどうるさいくらいに心臓の音が聞こえてきて、ついでに顔も真っ赤になって。

「…何、してんスか」
「…キス」

言いながら、腹が立つほどカッコいい顔が近づいてくる。

「わ、ちょ…啓介さ…」
「しぃ…」

長い指が唇に触れて、うっかり言われた通りに黙ってしまった。
指先が唇をなぞって、顎をすくわれた。
少しだけ見上げる位置にある顔がゆっくりと微笑んで囁くんだ。

「クチ、開けて」

閉じたり開けたり、忙しい。
オレは、一号車に積まれたコンビニのおにぎりを取りに来たのに。
両手に持ったまま、啓介さんの言葉に抗えない。
腰に回った手も、震える脚の間に差し込まれた長い脚も、その顔も。
息苦しくて、膝が震えて、なのに手がふさがってるから、拒めない。

「…っは…ぁ」

オレばっかり余裕がなくて、すげぇくやしい。
気付いたときには啓介さんにしがみついて見上げてた。

「お、まえ、んな顔…ムカつく…」

それは、オレのセリフだって言おうとしてまた、啓介さんがオレにキスした。

2012-12-04

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