もうひとくち
「…あんま、見ないでくださいよ」
「や、だって、おまえ…」
先端を少しだけ舐めて、口に含んで
少し硬くてやわらかいそこに歯を立てれば
じゅわりとにじみ出る液体が、とろりと伝い落ちる。
こぼしたくなくて、口に含むとさらに溢れる。
舌先ですくい取りながら吸って、唇を離す。
ちゅ、と音が響いて、唇の端からぽたりと落ちたそれは
厚いデニムに染みを作った。
「…啓介さん、ティッシュありますか?」
「ん、あ、ああ、ちょっと待て」
「すいません、ちょっとこぼれたかも」
「ここにもついてる」
引き寄せられて、上唇の端を舐められる。
「なに」
「…ケチャップ。ていうかオレにもひとくち」
言うが早いか、豪快に銜えられて、手に持ったフランクフルトの
半分以上が啓介の口の中に入っている。
「ひ、ひとくちって…」
抗議の目を向けると、銜えたまま上目遣いの啓介と視線がかち合う。
不自然なまでに扇情的なその目に、からかわれていると知る。
ちゅぽん、と音を立てて離れた啓介が口いっぱいのそれを咀嚼して
喉仏がゆっくりと上下する。
「ごちそーさん」
ご機嫌な笑みを作る啓介の肩を引き寄せ、がぶりと噛みついた。
「イテ、何すんだよ」
「………ついてました」
「…まだ、残ってる気がする」
ニヤリ、と微笑むその顔に
手渡されたティッシュを乱暴に押し付けてやった。
2012-12-14
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