独占欲
どこの誰かも知らないギャラリーの視線なんて心底どうでもいい。
見られることには慣れていて、まるで何も感じない。
けど今正面から注がれるそれは特別で、そのたったひとりをのぞいて、の話だ。
ちりちりと焼け付くような、くすぐったくてクセになるような感触。
「あんま見るなよ。顔に穴があきそうだぜ」
「あっ、…すみません」
からかうように言えばバツが悪そうに視線をそらせて、ついでに少し頬が膨れる。
外れた視線を追えば、そこにはもう飽きるほど目指し続けた背中。
視線を戻せば、少し赤くなった顔がある。
面白くねえ。
「……うそ、やっぱこっち見てろ」
ハチロクに凭れて胡坐をかいた膝の上に投げ出された手をそっと握れば、
オレだけが知ってる顔になる。
「なあ、藤原」
「はい」
「すげー好き」
こんなところで、と咎める視線に「おまえは?」と囁けば、
答えの代わりに、握ったはずの手がぎゅっと握り返された。
2012-04-22
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