キスの日

バスルームを出てリビングを覗くと、長い脚がソファの端からはみ出している。
ゆっくりと音も立てずに忍び寄る。
こっそりと傍に寄ってじっと盗み見ていると、長い睫毛が少しだけ揺れた。
抱えているクッションを取り上げて、そっと肩を撫でさする。

「起きてるんでしょ、啓介さん」
「起きてねえよ」

肩に置いた手を握り、目を閉じたままそう答えた。
拓海は小さくため息をついて、ソファの端に腰を下ろした。

「ベッドで寝たほうがいいですよ」
「んー……」

来い来い、と指先だけで手招きする啓介に顔を寄せると、
伏せられていた瞼がゆっくりと上がる。

「おまえは?」
「……配達あるんで、今日は帰ります」

吐く息に交じって「そうだった」と呟く声が聞こえる。
啓介が肘をついて上半身を起こすと、反対側の手が拓海の項部に添えらた。
親指が耳の後ろを撫でる動きを感じながら、眠そうなその顔を見つめる。

「無理させちまった?」
「……いいえ」

はにかみを返して、少し乱れた前髪に指を梳き入れてみる。
うなじにある手に僅かに重みが加わり、ゆっくりと顔が近づく。
薄く開いた唇から赤い舌が覗き、拓海のそれと絡み合う。

「……ん、……っ」

ついさっきまで互いに何度も味わったそこを、飽きもせずに貪る。
このままではせっかく鎮まった芯が再び熱を持ってしまう。
離れるのが惜しくても、顎を引いてやんわりと胸を押し返した。

「啓介さん、ちゃんと部屋で寝てくださいよ」
「……分かってる」

答えながらまた唇が触れ、じんじんと痺れるそこを優しく食んだ。
同じように歯を立てて甘く噛むと、触れ合ったまま啓介がクスクスと笑いだす。
それにつられて、堪え切れずに噴きだした。

「もう、引き止めるの禁止ですって」
「キスしてるだけじゃん」
「じゃあこれは何ですか」

しっかりと拓海の腰に回った腕を掴んで唇を尖らせる。

「なんだろうな?」

啓介は体勢を変えソファの背もたれに体を預けながら、拓海の太ももを撫でた。
視線をやると、いつの間にか啓介に跨って圧し掛かっている自分に気付く。

「あ……っ」

慌てて腰を浮かせるとすかさず啓介の手がそれを阻んだ。

「もうちょっとだけ……な?」

背中に感じる腕の重みに呆れたふりをして見せて、ゆっくりと唇を重ねた。

2012-05-23

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