願い事

「啓介さん、なんで短冊にオレの名前書いてるんですか」
「え、だって藤原とずっといたいとかもっといちゃいちゃしたいとかさ」
「な、…何を言い出すんですかいきなり」

ちょっと足を延ばしてやってきたカー用品店の入口で、
備え付けのテーブル前にしゃがんでいた啓介が立ち上がり、拓海の耳に顔を寄せる。

「シャクってほしいとか飲んでほしいとか朝まで入れたまんまでいてみたいとか」
「う、うわあー! あんたちょっと、何考えてるんですかッ」

まわりを気にしながら、大胆発言を繰り出す啓介を慌てて制止する。
閉店間際でほとんど人もいないと分かっていても、その内容ゆえに気が気じゃなかった。
啓介は当然のごとくたいして気に留める様子もなく。

「そういう願いごと全部ひっくるめると結局藤原が欲しいってことになるんだよ」
「ていうか短冊は欲しいもの書くんじゃないでしょう」
「似たようなもんだろ」
「全然違うし、それ、絶対持って帰ってくださいよ」
「んじゃ藤原、オレの願い事叶えてくれる?」
「なんでオレが」
「コレ、持って帰るんなら願いが叶わねえかもしれねーだろ」

啓介は短冊をちらつかせては尤もらしく言いながら、口端を上げる。
年に一度のイベントに乗じた、ただの特設コーナーというだけなのに。
ここでうんと言わなければ、おそらく啓介はその短冊を飾ってしまうのだろう。
阻止するならば、拓海は頷くしかないのだ。

「はあ。しょうがねーなぁ…じゃあ…オレができそうなこといっこだけなら、いいですよ」
「オッケー交渉成立」

もう一度テーブルに伏して、せっせと願い事を書きこんでいる。
覗きこもうとした拓海を器用に妨害しながら書きあげて、ポケットに突っこんだ。

「帰ってからのお楽しみな」

眩しい笑顔にぞくりと震える体を無視して、
ご機嫌な足取りの啓介の後に続いてFDに乗りこんだ。

2012-07-07

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