ご褒美
「啓介さん、ありがとうございました」
「お、サンキュー」
店の軒下で涼んでいる啓介に麦茶とタオルを差し出しながら、
ピカピカのハチロクに目を細める。
アポなしで啓介がやって来た時、拓海はちょうど洗車の真っ最中だった。
ハチロクの前に停まったFDもより鮮やかに、陽射しを反射している。
「すごく丁寧でしたね」
「なんだよ、その意外デスって顔は」
「いえ、そんなことは…っ」
指先で頬をつつかれ、暑さのせいも重なって顔が赤くなってしまう。
誤魔化すようにタオルをかぶり、麦茶を呷る。
拭っても拭っても噴き出す汗はTシャツの色を変え、
ツンと逆立った啓介の髪はしんなりと力を失くしているように見える。
「…啓介さん、手伝わせちゃったみたいですみません」
「いいって。FDもきれーンなったし」
首に掛けたタオルでぐい、と汗を拭う仕草に目を奪われる。
その視線に気付いた啓介が薄く笑って、顔を寄せた。
逆光で啓介の表情はうまく読み取れなかったが、
覚えのある感触が唇を掠める。
「あ…ッ」
「それに、好きでやったことだしさ」
真剣な目に、息が詰まった。
まるで熱い告白を受けたときの、胸の奥を鷲掴むような感覚が襲う。
「ちょ、あんたいま…ッ」
誰もいないとはいえ外で何をするんだと啓介に手を伸ばすと
おどけたように笑う啓介は拓海に空のグラスを押し付けて
出しっぱなしのホースやバケツを片し始めた。
「ああ、もう、そんなのあとでオレがやりますから」
「おっと、藤原?」
啓介の腕を引いて店の中へ連れ込んだ。
適当な場所へグラスを置いて啓介を壁際に追い詰める。
「なんだよ? 礼なら今もらったぜ?」
からかう口調でタオルの端を掴む啓介の手首を掴んだ。
されるまま拓海に手を預ける啓介と指先を絡め合う。
「あ、…あれだけでいいんですか」
「──や、くれるっつーならいくらでも」
嬉しそうに目を閉じて笑う啓介に一歩近づき、少しだけ背を伸ばした。
2012-07-18
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