オレのせい

車の陰から、自分を呼ぶ声がする。

「あーあー、藤原、ちょっと」
「なんですか」
「いいからちょっと」

言われるままそばによると、ぎゅっと抱きしめられた。

「ちょっと、またですか」
「ロータリーは燃費悪いんだよ」
「それは車の話ですよね」
「オレも一緒」

並べる不平不満を蹴散らして、熱い体に包まれる。
ふと、首筋に唇が触れた。

「啓介さん」
「ん、もうちょっと」

唇はするすると這いあがって耳の付け根に到達した。

「…ッ」
「ふじわら」

甘い声が注がれて、柔らかいそこに吸い付かれる。

「啓介さんっ…てばッ」

突き離すと目が合って、やばいと思ったときにはもう手遅れで。
ぐっと引き寄せられ、深く深く、口づけられる。

「ンン…ッ、…ぁ」

愛車のボンネットに組み敷かれ、目の前には啓介の顔と夜空が広がっている。
満足に抵抗もできないのは今がまだプラクティスの合間、休憩中であるせいだ。
圧し掛かる体に手を伸ばし、形の良い耳を掴む。

「痛って…ッ」
「あ、あとちょっとがなんで我慢できないんですか」

隙をついて啓介の下から抜けだすと、 気付けばTシャツの裾がめくられていた。
それを手早く直しながら軽く睨む。
啓介はハチロクのボンネットに憮然としながら腰掛けた。

「藤原が悪い」
「なんでですか」
「着いて早々、プラクティスの後空いてますかとか言うからだろ」
「そ、それはだって給料入ったらメシおごるって前に約束したから」
「そういうこっちゃねーんだよ」

立ちあがり、長い脚でずんずんと距離を詰めてくる。
逃げ場はなく、FDのフェンダーにつまずいてボンネットに尻もちをついた。

「お預け食らわせてるオレに期待させちゃうおまえが悪いの」

抵抗空しく、反論は舌で塞がれた。

2012-08-20

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