啓介のルール

「藤原、おまえも食う?」
「え?」
「ん」

指先で軽く摘まんだポッキーを、拓海が返事をする前に口に差し込んでくる。
手も使わずにポリポリと食べ進めて残り三分の一くらいになったところで
隣に座っていた啓介が拓海の肩を抱き寄せる。

「?!」

チョコでコーティングされていない部分が啓介の口の中に消えたのは見えた。
そしてさらに近づいてくるのも見える。
啓介の意図をやっと察して、慌てて噛み切って離れようとしても
肩を抱かれているせいで間に合わなかった。
ほんのり甘い菓子を口に含んだまま、閉じた唇が触れ合って離れた。

「……」

離れて行った啓介はもう1本を口に咥えながら目の前のテレビに視線を戻す。
拓海は口の中に残った菓子を食べきってから、啓介の二の腕に拳を押し付けた。

「なに、もう1本?」
「ちが…っ」

言いかけて開いた唇に、啓介が咥えていた1本が入ってくる。
反射的に口を閉じると、また啓介の唇が触れた。
今度は唇をぺろりと舐めて離れて行った。

「あの、こんなルールでしたっけ」
「知らね」

絶対に知っているだろう笑顔を見せ、また拓海を抱き寄せてキスをする。
ゲームの主役であるはずのポッキーは箱に入ったまま、
啓介の唇と舌だけが拓海の唇を占領している。
僅かに後退りする拓海の腰を啓介の腕が捕らえて離さない。
それどころかソファの上で押し倒されてしまった。

「もっといる?」
「…はい」

ちゅう、と唇に吸い付いてくる啓介に拓海はキスをしたままふっと笑って、
覆いかぶさる背中に腕を回した。

2012-11-11

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