真夜中のラブレター
啓介さんのメールはそっけない。というか、いたってシンプル。
まめなことに変わりはないけど、たいてい一言だけのメールが届く。
シンプルさで言えば、きっとオレも負けてないけど
こんなに気持ちが温かくなるような一言を伝えられたためしがない。
「明日が楽しみすぎて眠れない、か」
らしくないとは思うのに、こんなメールを送ってくる啓介さんを想像すると顔が緩む。
この前遊びに行った前の夜は、寝坊禁止だったよな、と受信箱を遡る。
啓介さんからのメッセージで埋まったそこに、もう一通がやってきた。
「なんだろ…『あ』?」
開けばそこに、その一文字だけが刻まれている。
それから待てど暮らせど続きは来なくて、気になりすぎて眠気が飛んで行ってしまった。
「啓介さんが悪いんだからな」
呼び出し音を聞きながら悪態をついてしまう。
3コール目で繋がって、一瞬で空気が柔らかくなった。
「もしもし」
『おー、どうした?』
「どうしたじゃないですよ、なんですか『あ』って」
『あー、いや…打ち間違い?』
「…あやしい」
訝しげなオレの言葉に啓介さんがはぁっとため息をついて、それからフッと笑った。
『明日会ってから言うよ』
「えーオレ気になっちゃって眠れませんよ」
『気にしろ気にしろ。けど寝坊すんなよ』
「何すか、それ…」
『いいから、また明日な。…おやすみ』
「…っ、おやすみなさい」
たっぷりと溜めた後に繰り出される耳をくすぐるみたいな掠れた声に、
オレの顔は自分でも分かるくらいにぼっと赤くなった。
あの声に弱いと知っていてあんな声で囁いて、オレを寝かせないつもりなんだろうか。
「寝坊したら絶対啓介さんのせいだからな」
電話を切った後、そんな可愛げのないメールを送って頭から布団にもぐりこんだ。
2014-07-24
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