シュガー
オレはさ、きっと病気だと思うぜ。
だってさ。
「藤原ーっ」
ツンツンに逆立てた金髪も、鋭い視線も、意外と薄い唇や着やせするタイプの体型も
小走りで弾む息も腹立つくらいに長い脚もオレより少しだけデカい手も。
「駐車場混んでてさ、何だよ無視すんなよ、藤原」
「別に、してません」
夜の峠だけじゃない。昼間だって街を歩けば何人も振り返る。
ほら、今だって声を掛けようとしている2人組が近づいてきてる。
見ず知らずの女の子にまで超モテモテのこのヒトが恋人だなんて、信じられるか?
「二週間ぶりか? 今日何時までいれんの?」
きっとわざとだ。言いながら、オレの肩に腕を回して歩き出す。
さっきの女の子たちが残念そうな顔で見送ってる。
だけどごめん、オレはそれを内心喜んじまってる。
「あの、配達あるんで、間に合えば別に」
「ふぅん」
同じ男だって言うのに、伏せた目元が超セクシー。
ほっぺたに息がかかるくらい近い位置に、啓介さんがいる。
顔を動かせば、キスだってできちゃうぜ、きっと。
「早く二人になりてぇって言ったら、…さっそく過ぎて引く?」
年下なのにライバルって認めてくれて対等で、時には喧嘩だってする。
だけど車に乗ってるとき以外はこんな風に甘えてきたりする。
めちゃめちゃカッコいいのに、笑顔がこんなに甘いなんて反則だ。
オレにだけ聞こえる声で、オレがたまんなくなる耳元で、いきなり腰にクる甘さで、
絶対わざとだ。会った途端、さっきから反則技ばっかり使ってくる。
肩を組まれていたのに、啓介さんの指はいつのまにか腰に添えられている。
「べ、別に」
本当のところオレだって早く二人きりになりたいって思ってるくせに
照れくささが邪魔して素直にそう言えない。
「藤原、さっきから別に、ばっかじゃん」
「そんな、別に、あっ」
思わず口を塞いだら、啓介さんがオレの隣で爆笑してる。
目尻に薄っすら涙まで浮かべて、ちょっと笑いすぎじゃないのか?
「はーっ、おっかしー藤原」
涙を拭いながら連れて行かれたのはカラオケだった。
部屋に入るなり、むすくれたままのオレにちゅって軽いキス。
硬めのソファに押し倒されながら、モニターの灯りに照らされた啓介さんを見上げた。
「な、軽く腹ごしらえさせて」
「あ、全然いいっすよ」
テーブルの上に並べられたメニューに手を伸ばそうとして、その手を取られた。
あれって思っている間に、啓介さんの顔がどんどん近づいてくる。
「それって、わざと?」
「えっ?」
笑顔の啓介さんが、目を閉じて頭を傾けた。
オレも反射的に目を閉じて、優しく触れる唇を感じた。
少しずつキスが深くなって、砂糖菓子みたいな味が広がった。
もっと味わいたくて啓介さんの首に腕を回したらフッと笑う気配がして、
少し体を離すと目の前にとびきり甘い笑顔があふれていた。
啓介さんの意図をやっと察して、オレの顔に熱が集まるのがわかった。
ついでに胸も苦しくなって、きゅんきゅんしてきた。
「すげぇ甘ぇ…。やっぱ、たまんね」
笑顔とキスだけでこんなに胸が苦しくなるなんてさ、
やっぱりオレはさ、病気だと思うぜ。
2014-09-12
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