プラクティス
もしかしたらくだらないプライドかもしれない。
啓介さんにしてみれば取るに足らないことかもしれない。
だけど。
「ま、待った…ッ」
つっぱった腕の向こうで、啓介さんがすげー驚いた顔してる。
そりゃそーだよな。何もこんなタイミングで止めなくてもって思ってるよな。
ああでも、オレを欲しがってるぎらぎらとした顔つき、嫌いじゃない。
嫌いじゃない…どころか、だけど。
「ちょっと、確認したいっつーか」
「ごめん、下になる気はねえ」
「そっ、そうじゃなくて」
別に今さら、そんなことで悩んでない。
啓介さんの手、気持ちいいし、男のオレを大事にしてくれてるのも知ってる。
「オレとするの、楽しい、ですか」
「あ?」
うわっ。どうしよ、啓介さんすげー不機嫌な顔になっちまった!
言い方間違えたかな。間違えたんだよな、この顔は。
「あの、あのオレ、そのなんて言えばいいのか」
「したくねーなら無理にはしねえよ」
なんて言って離れていく啓介さんに、後ろからタックルした。
啓介さんのベッドは広いから落ちなかったけど、勢いよく顔からシーツに突っ込んだ。
「いってーな、ナンだよ!」
赤くなった鼻をさすりながら振り返る啓介さんが怒ってなさそうでほっとした。
オレはよっぽどの顔をしてたのか、啓介さんはオレの下でしぶしぶ大の字になった。
腰の上に乗り上げて、少し不機嫌な顔をじっと見下ろす。
「あの、オレ下手じゃないっすか?」
「はぁ?!」
「いやその、オレこういうこと慣れてねーから練習とかし、てッ」
言い終わる前に体がひっくり返されて、ついでに口も塞がれた。
ああ、ダメだって。啓介さんのキスが気持ち良すぎて頭ん中がふわふわしちゃって
こうなったらもうまともに話なんてできねーのに。
「藤原」
「は、…ンっ」
「練習っておまえ、どこのどいつと何するつもりだ」
「は?」
「許さねーぞそんなこと」
うげーっ、なんでかめちゃめちゃ怒ってる。
齧り付くみたいなキスのおかげで反論なんか一文字も口から出せないのに、
もっとしてほしいなんて思ってる。オレって重症。
「…啓介さん以外とするわけないだろ」
だからもっと。
そう思って目を閉じたのに、啓介さんは続きをしてくれなくなった。
片目を開けて様子を見ると、啓介さんがじっとオレを見てる。
「それ、マジ?」
「してもらってばっかで、啓介さんには物足りないかもしれないけど」
だからこそ聞いておきたかったのに。
オレだって、ちゃんと啓介さんのこと気持ちよくしたい。
「じゃあオレの好きなキス、覚えてくれんだ?」
「む、難しくなければ」
「藤原の場合、たぶん頭で理解するのは無理だよな」
「うっ…」
キラッキラの、とびきりの笑顔が近づいてくる。
その眼に欲望を携えて。
「体が覚えるまで反復練習、付き合ってやるよ」
気が遠くなるほど練習量に圧倒されて、オレは覚えるどころか
音を上げないでいることにばっかり必死だった。
2014-10-10
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