優しい顔して

最近、オレが忙しいときとか朝の時間がないときに限って
藤原が発情モードっつーか甘えモード発動してる気がする。
無理やり取らされた有休だって言うから昨夜から掻っ攫うみたいにして連れてきたけど、
ベッドの中の藤原が無言でじーっと見つめてきやがる。
一限は絶対落とせない講義だってのを早朝に思い出したオレに対する試練か?
もう落としてもいいから休んじまおうかって葛藤で頭と体が爆発しそうだ。
慌ただしく着替えながら、覆いかぶさるようにして軽いキスをした。

「一限だけ出たら帰ってくるからな」
「…何か今のやっつけ仕事みたいだ」

起こそうとした体を藤原が捕まえる。
くそ、こんなときじゃなきゃこんな貴重なチャンス逃すはずねえのに。

「やり直せってか」
「ん」
「おまえ、なんで今日に限ってそんないじわるすんだよ!」

そう言いながらちゃっかり藤原の唇を塞いで、抱き締めてくる体をベッドから引きずり出した。
喉元に見える昨夜の名残が後ろ髪を引く。

「けーすけさん」
「ちくしょ…っ、マジ、勘弁してくれよ藤原」

あろうことか股間に伸ばしてきた藤原の手首を泣く泣く掴んで、キスを深くした。
セックスしてるみたいに濃厚なやつ、出掛けにするようなもんじゃないのについ夢中になっちまう。
掴んでいた手に、藤原が力を入れたのが伝わってきた。
それでも何とか押し倒すのを我慢して唇を離すと、藤原のまつ毛が揺れたのが見えた。
藤原が濡れた口元をゆっくりと指先で拭って、ペロリと舐める。
そのまま視線を動かして、見惚れて固まっていたオレを射抜いた。
弾かれたように離れて背を向けた。

「や、やべ、マジでもう行くからな」
「啓介さん」
「ん?」

反射的に振り返ったオレに、藤原が触れるだけのキスをした。
栗色の髪がゆっくりと離れていくと藤原は静かにほほ笑んで、

「いってらっしゃい」

そう言いながらまたいそいそとベッドへと帰って行った。
いや、いいけど。寝ててくれても別にいいんだけど!
ベッドに膝をついて藤原の顔を覗きこむ。

「おまえ、帰ってきたら覚えとけよ」
「…はい」

ほんのり赤い顔で、小さく笑った。
甘い香りに誘われるように唇を押し付けた。
頼むからそんな目で見んなよ藤原。
優しそうな顔して、実はこんな意地悪で小悪魔で魔性でエロいなんて
オレしか知らなくていいけど。
時間さえあればと何度苦汁をのまされたことか。
踵を返して歩き出すオレはきっと涙目だ。

2014-11-27

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