プレゼント

「はい、藤原豆腐店です」
「豆腐アイスのケーキ、あるなら配達お願いしたいんだけど」
「…うちはケーキ屋でもピザ屋でもないんですけど」

店仕舞いも近い時間、いたずら電話なら切ってやろうかと憮然とした声で答えると、
聞き覚えのある声の主は受話器の向こうで笑いをこらえているようだ。

「看板息子にサンタのかっこで来てもらいたいなーって」
「だからそういう店じゃねえって」
「頭にリボンとかトナカイの角でもいいんだけど」
「ヒトの話聞いてます?」
「いや、いっそケーキなしで息子だけでもいいから」
「オレは売りモンじゃありませんし一般家庭への配達もやってません」
「じゃあ取りに行くからさ、24日午後7時、準備しといてよ」

囁くような声で鼓膜を撫でられ、受話器越しでも首筋がぞくりと粟立った。
誰にも見られてないのに、つい後ろを振り返ってしまう。

「…準備って、ケーキなんか聞いてみないとわかりませんよ」
「ケーキはどっちでもいいよ。ただ持ち帰り用にちゃんとラッピングしてくれ」
「ラッピング?」
「脱がせるのに時間かかる服とかさ」
「い、いや、オレ自分で脱ぎますから」
「…積極的ィ」

浮かれた声で、口笛を吹かれてハッとした。
さっきよりもさらに赤くなって、ついうつむいてしまう。

「も、もう切りますよ」
「照れることねえじゃん。オレすっげー楽しみにしてんだからさ」
「ケーキのことはオヤジに聞いてみます」
「…そっちじゃねえんだけどな」

ぽつりとこぼれた独り言をばっちり聞き取った耳が、これ以上ないほど熱くなった。

「じ、じゃあ24日、遅れないように取りに来てください」

背後で店の扉が開く音が聞こえ、早口にそれだけ言うと受話器を置いた。

「何だ、注文か?」
「あー、…豆腐アイスのケーキ、24日に取りに来るって」
「顔赤いぞ拓海。風邪じゃねえのか」
「な、何でもねえ。オレもう寝るから」

部屋まで駆け上がり、ベッドに飛び込んだ。
冷たいはずの布団も気にならないくらいに顔が熱い。
首尾よく運ばれた会話を反芻しながら、まんざらでもない自分に気づいた。

「ラッピングとか頭にリボンとか、何考えてんだ」

これまでクリスマスに無縁だった自分を取り戻したくて悪態をついてみる。
だがくるまった布団から顔だけを出して呟いた言葉にふと気が付いた。
本当に熱が出てしまいそうで、これ以上余計なことを考えないようにぎゅっと目を閉じた。

2014-12-24

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