惚れたが負け
最近付き合い始めた相手は遅刻こそしたことはないが、いつも約束の時間ぎりぎりにやってくる。
一度だけ、予定より早く着きそうだからと電話を入れたらまだ寝ていたことがあって
楽しみすぎてやたら早起きした自分がバカみたいに思えた。
そもそも約束の日に寝坊するのはどういうことだと会った途端に問い詰めたら
前の日によく眠れなかったとしぶしぶ呟いた。
その顔がやけに赤かったから、口ではしょうがねえなと言いながら、怒りは吹き飛んでいた。
それ以来、デート当日は朝家を出る前に電話を入れるようにしている。
「あ、藤原? 起きてた?」
寝起きの掠れ声を聞きながら、愛車のエンジンをかける。
薄っすらと顔がにやけているのは自覚している。
「今から出るから、そのまま起きとけよ」
きっとまた二度寝でもかますに違いない。おざなりな返事に釘を刺し、通話を切った。
アクセルを踏み込み、快晴の空の下軽快に走り出す。
のんきな寝顔を叩き起こすのもいいし、起きるまで添い寝してやるのも悪くない。
それとも。
「あいつからキスしてもらおうか」
一日の楽しい計画を頭に描きながら、気づけば口笛を吹いていた。
2015-03-10
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