彼の甘え方
「藤原、我慢しなくていいんだぜ」
「いきなり何っすか」
「言いたいことあるなら言っちまいな」
「はぁ? 別にないっすけど」
「遠慮すんな」
啓介さんはオレの目の前で両手を広げて、どうだって顔してる。
脈絡もなく話が始まることなんて珍しくはないけど、今日のはさっぱり分からない。
だんだん、そんなオレのほうが理解できないって顔に変わってきた。
だって本当に分からない。
「啓介さん超カッコいーとか、抱かれてーとか、思ってるだけじゃなくていいんだぜ」
ほらほら、って感じで両手で手招きしてる。
あれ、もしかしてこれって笑いを取りに来てるのかな?
オレ、そんな仏頂面してた?
「そんなこと言ってほしいんですか?」
絶対言われ慣れてるくせに。
オレがそんなこと言わないって分かってるくせに。
だいたい、抱か…って何だよ。ついさっきまでさんざんしてたじゃんか。恥ずかしい。
呆れたように盛大にため息をついてみせ、手に持っていたペットボトルに口をつけた。
啓介さんは少し離れて座っていたのに、いっきに隣にやってきてぴたりと体を寄せた。
「大好き、でもいいぜ」
耳元に顔を近づけ、そんなことを囁いた。
口の中の液体を吹き出すまいと必死にこらえて涙目だ。
啓介さんを睨みつけたら、さっきまでの軽口言ってる雰囲気じゃなくて、…全然違くて、
オレは不意をつかれて文句のひとつも言えなかった。
恥ずかしすぎてそっぽを向いたら、肩に啓介さんの顎が乗ったのがわかった。
「真っ赤になって、かーわいいの」
ふーって息を吹きかけられて、オレは思わず立ち上がろうとした。
でも一足先に拘束されていた。啓介さんの長い腕に。
「言ってくれるまで離さねえぞー」
「な、…なら言いません」
沈黙が続いて、耐えきれずちらりと横目で啓介さんを見たら、
見たことないくらいすっげー真っ赤になってて
参った、とか何とか言いながら、オレを抱きしめる腕の力をさらに強くした。
2015-04-07
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