瞼の裏

「好きだぜ、藤原」
「えっ、け、啓介さん…?」
「すげー好き」

驚いた顔もカワイイなんて、オレも相当重症だ。
こんなニヤけた面してたら引かれちまうかも。
けど藤原が嬉しそうに笑うから、そんなの見たらもう我慢できねぇ。

一歩踏み出したはずなのに、突然地面が抜け落ちたみたいに足がつかなかった。
崩れた体に焦って目を開けたら、なんでか藤原に寄りかかってた。
げっ、まさかオレ、寝てたのか?

「わ、わりぃ、藤原。っつーかオレ、なんか言ってた?」

焦りがどんどんひどくなる。
夢の中じゃあんなにするっと言葉にできたのに、いざ本人を前にしたら情けねーったらねえな。

「べ、べつに、ただ…歯ぎしりすごかったです」
「はぁ? おい、ウソだろ?」

立ち上がって駆け出す藤原を、反射的に追いかける。
意外と足が速いけど、逃げられると追いたくなるだろ。
後ろから見てわかるくらい、耳が真っ赤になってんだから、逃がせねーだろってんだよ。

「こら、待てって藤原っ」

藤原がしまったって顔して、また逃げようとするから今度こそがっちり羽交い絞めにした。
細身のくせに案外がっしりしてやがる。
けどキスするにはちょうどよさそうなところに唇がある。
不健全なことまでチェックしながら、どさくさに紛れて背後から抱きしめてみた。

「ナンだよ、何で逃げるんだ」
「逃げてねーっ」
「逃げただろうが。何でだ」
「本当、何でもないですって。追いかけてくるから、つい」

何でもないなら、なんでそんな顔真っ赤にしてるんだよ。
いちいちカワイイとか思っちまうんだよ、クソ。
肩に頭を押し付けて、深く息を吐いた。
藤原はびくっとして固まって、息をひそめてる。
怒ってねーのに。勘違いすんなよ。
観念したのか、気まずそうに切り出した。

「啓介さんがその、す…好き、って言う前に、オレが」
「藤原が?」
「もう、聞こえてたんじゃないんですか? だからオレ、すげー焦って」
「藤原が、何。聞かして」

背中から胸に伝わる鼓動が恐ろしく速い。
緊張が伝わってきて、オレまでドキドキしてきた。
ていうかオレ、藤原に告っちまってんじゃん。しかも寝言で。最悪。

「す、き、…って」

って自分の情けなさにうなだれてたから、危うく聞き逃すところだった。

「え?」
「好き、なんですすいません」
「マジ? え、藤原オレのこと好きなの?」
「だから、そう言ってます」

目の前の耳も首筋も、全部赤く染まってる。
そんな藤原に、オレは今、ものすごく、猛烈に、欲情している。

「藤原、こっち向いて」

無言で首を横に振るのも、何となく想像できた。
だから藤原の顎に手を添えて振り向かせるのも自然な流れなわけで。
触れるだけの軽いキスをしたら、藤原はさらに赤くなりながら笑った。
どんな想像より、夢の中より、生身の藤原に敵うものなんてない。
友達じゃ足りない。
ライバルだけじゃ満たされない。

「藤原の全部、オレのもんにする」

ぎゅっと目を閉じても、藤原が笑っていた。

2015-05-13

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