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足りない。
仕事とDの両立で忙しいけど充実してるはずなのに、何かが足りない。
毎日が精いっぱいでも睡眠時間は十分あるのに、どこか満たされない気分。
軽いため息をついて、立ち読みしていた雑誌を棚に戻して店を出る。
せっかくの休みにイツキは捕まらないし、一人でいてもつまらない。
まるで自分がガス欠の車みたいだ。
やっぱりこんなときは思いきり眠るに限る。
横断歩道の信号に足止めされて、そんなことを思った。
うつむき加減で豆腐屋に着くころ、目の前に鮮やかな色彩が広がった。
「やっと帰ってきたか」
運転席から降りるなり目の前に立ち塞がった相手に、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。
「な、なんで、今日は予定…あるって」
「寂しがってんじゃねーかと思って、速攻終わらせてきたんだよ。なのに携帯出ねーし」
言われて、部屋の中に忘れてきたのに気が付いた。
何も言えないでいると、いきなり腰を抱き寄せられた。
広がる熱と香りに、からっぽのガスタンクが満たされるような錯覚に陥る。
「あ…っ」
強い力で抱き締められるのとほぼ同時に首筋に口づけられ、思わず声が漏れた。
両手はシャツを掴むことも体を突き飛ばすこともできず、ただ中を彷徨っている。
「止めなくていーのかよ」
吐息を吹きかけながら紡がれる熱っぽい声が耳に響いた。
ぎゅっと目を閉じて息をのむ。
会えなくて寂しいなんてガラじゃないのに、笑顔を見るとホッとする。
「なぁ、藤原の部屋、入れてくれる?」
「…っ、…ん」
小さく頷くと体は解放され、拓海は胸の高鳴りを感じながら啓介を部屋に通した。
ベッドの上の携帯電話が、着信を知らせて点滅している。
拾い上げようとした手を取られ、指先に口づけられた。
視線に煽られ、思わず自分からキスしていた。
足りないものは何なのか、本能では分かってる。
止められるはずがない。
言葉はいらない。
今はただ、隙間を埋め尽くすように口づけを繰り返した。
2015-05-23
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