目は口ほどに
『気になる女の子を5秒以上見つめるといいらしいぜー』
イツキがそんなことを言うから、ちょっと試してみようって気になっただけだ。
ただ相手は女の子じゃないってだけで。
同じ男にも通用するのかって思っただけで。
だけどDのときはあんまり近くにいないから、タイミングが難しい。
空き缶を脚の間でいじりながら、我ながらバカなことしようとしてると考える。
「藤原」
呼びかけられて顔を上げたら、目当ての人物が立っていた。
咥え煙草で、腕なんか組んで、ガードレールに腰かけるオレを見下ろしている。
見つめるって言ってもなー。
今日は髪がいつもよりソフトに立ち上がってるなとか、
派手な色のシャツも似合うなとか、
脚が長ぇなーとか、スニーカー格好いいなとか、涼介さんに似てなさそうで似てるなとか、
──ただ、この人が好きだなーとか考えちゃうんだよな…。
「何見てんだコラ」
ぎゅっと鼻をつままれて、思考が中断した。
横を向いて煙を吐き出した啓介さんが、ぐっと近づいてきた。
腰をかがめてオレの顔をまじまじと見てる。ていうか、睨んでる。
煙草と、香水の匂いがする。
瞳孔、ちょっと開いてる。
うわ、睫毛長い。
唇、柔らかい。
…。
……。
「ん?」
「キスしたいならそう言えよ」
「んん?」
「言われなくてもするけどさ」
「ンむ、…ぁ」
「っつーか、あんな目で見られたら止まんねー」
背中に腕を回されて、髪を撫でられて、舌まで入れられた。
オレ、座っててよかった。こんなの絶対立ってられない。
情けないけど、派手な色のシャツにしがみついてなすがまま。
「藤原、この後空いてる?」
唇が触れたまま囁かれて、オレは身震いした。
こんな体で帰れるわけがない。
目を開けたまま頷いたら、啓介さんがすげー幸せそうに笑った。
2015-06-22
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