藤原欠乏症
「啓介さん、なんか元気なくないですか?」
「…別に」
「本当ですか?」
「むしろ色々有り余って困ってるくらいだっつーの」
「あの、これじゃ読みづらいです」
「これ以上は譲らねえ」
そんな雑誌よりオレを構えよって言ってもどうしても今読みたい特集があるっつーから我慢してやってるのに。
腕の中に閉じ込めたって手元の雑誌に視線は釘付け。
目の前のうなじに口づけたってくすぐったがるばかりで色気のいの字もねえ。
なんだってこいつはこうドライなんだよ。ちくしょう。
オレら付き合ってんじゃないのかよ。
元気ないですねなんてよく言えたもんだ。1か月ぶりに会ったんだぜ?
こいつの反応がまったく信じられねえ。マジで泣けてくる。
「…んでしょ? 啓介さんってば」
「あ? 悪い。なに?」
「だから、…と、泊まっていくんでしょって」
手に持ってた雑誌を脇に除けて、藤原はオレに正面向いて座った。
少しだけうつむいて、視線だけ寄越して、目元を潤ませて。
ああ、すげーキスしたい。
両手を頬に添えたら藤原がふって笑ってオレの膝に乗っかってきた。
これ願望っつーか夢じゃねーのかな、もしかして。
ちょっとはオレのこと好きでいてくれんなら、別にいいんだ。オレばっか好きでもさ。
…今の嘘。本当は同じくらい藤原もオレのこと欲しがれよって思ってる。
藤原が足りな過ぎてオレおかしくなっちまったのか?
あークソ。夢でも何でもいいや。
目が覚めちまう前に藤原の頭を引き寄せて思いっきり口づけた。
バカみたいに藤原藤原って何度も名前を呼んで、好きだって繰り返した。
「オレだって好きですよ」
「え…藤原、いまなんて言っ…」
「だから! もう用事済ませたからあとはアンタの好きにしていいって言ってんですよッ」
逆切れかよって思ったけどそれは言わなかった。
口調は乱暴でも、我慢できないって藤原の目がそう言ってる。
不器用な藤原の精一杯のデレってやつだ。
「覚悟しろよな。1か月分だぜ」
「…ッ、望むところです」
膝の上の藤原を畳に押し倒してナマイキな唇を夢中で貪った。
2015-09-07
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