スイッチ

騒がしさとは無縁だが、隣がいつも以上に静かすぎて違和感を覚えた啓介は、伸びをしながら拓海の様子に探りを入れた。
テレビを観ていたはずの拓海はソファに寄りかかって眠りに落ちていた。

「あれ、藤原寝ちまってるじゃん」

すぅすぅと小さく規則正しい寝息に口元が緩んだ。
栗色の髪を撫でながら形のいい耳に唇を寄せる。

「藤原、寝るならオレの部屋使えよ」
「んー…」

大きな瞳は薄っすらとだけ開いて、すぐそばにある啓介の視線とかち合う。

「起きれるか?」
「…ん」

拓海の手が伸びてきて啓介の体が引き寄せられた。
まだ寝ぼけているのか、触れた頬はやけに熱かった。
藤原、と声を掛けようと少し体を離すとあろうことか拓海は啓介にキスをしてきた。

「お、…おい…ふじ、わ……らっ」

誰かが酒でも飲ませたのか。それとも一服盛ったのか。
ここには二人しかいないはずなのに。
啓介は拓海の熱い舌を感じながら、それでも心を鬼にして頭を引き離した。

「生殺しにする気かよ、おまえ」
「けーすけさん」

むにゃむにゃと寝言を言いながら啓介に抱きついてくる拓海を突き放すことはできず、いつもは悲しいほど冷めているのに、激レアな甘えモードがよりによってなぜ今なんだと涙目になる。
寝ている相手と致す趣味はないはずだったが、とてもじゃないがこれ以上は堪えようがない。
体を揺さぶると、拓海は半目で啓介を眺めたあとへらっと笑顔を見せた。

「起きろって藤原」
「けーすけさんすき。へへへ」

この一言で、啓介の頭の中でドカンと何かが爆発を起こした。
最中に目を覚ました拓海に罵られようと、スイッチを入れたのはおまえだと責任転嫁してしまおう。
啓介は驚くほどの力を発揮して拓海を抱え上げて部屋へと連れ込んだ。

2015-09-12

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