敵わない
「最近オレのこと避けてませんか?」
「そ、んなことねぇよ」
「ありますよ」
「いや、ないって」
「ある」
「おわっ」
拓海が啓介への距離をぐっと詰めてきた。
外だというのに珍しい。
啓介は詰め寄られながらそんなことを考える。
「…藤原、なんか怒ってんの?」
「別に」
怒ってるじゃんとは口に出せず、啓介は顔をそむけた。
あんまり近くにいると、不埒な欲望で埋め尽くされそうになるからだ。
男相手に。
そんな問答は嫌になるほどやったのに、それでも感情のまま突っ走れないでいた。
先日勢いにまかせて体を繋げて、しばらく触るなと念押しされているのも理由の一つだ。
当の拓海はそんな台詞はさっぱり忘れてしまっているようなんだが。
「やっぱ避けてる」
「違うって」
背中にあたる愛車の無機質な冷たさが、今夜コイツは自分の味方でないと告げている。
拓海と一緒に自分を責めているような、そんな気分に陥る。
「啓介さんここんとこ変ですおかしいですもしかして悪い病気とかなんですか」
一息に言いながら抱きついてくる拓海に、啓介は頭が真っ白になった。
間近に感じる拓海の体温や匂いに、体は反射的に熱を上げる。
抱きしめ返そうとする腕は固まり、思うように動かせない。
頬に触れる拓海の額がすっと離れたと思ったら両手がぐっと腰を抱き寄せてきた。
「あ、おまえ…っ」
「…病気じゃなかった」
「当たり前だろーがっ」
毎夜焦がれてひとりで発散しても足りないくらい、健康体そのものだ。
すぐそばで拓海が見上げてくる。
その目は期待と安堵にあふれ、あろうことか笑顔さえ見せている。
「ちょ、離れて」
「何でですか」
「なんでって」
「オレでこうなってるんですよね? だから、オレが責任とります」
「は?」
顔は真っ赤だが酔っているわけではなさそうだ。
啓介は伸びてきた拓海の手をとっさに掴み、侵攻を何とか阻止した。
「オレじゃ嫌なんですか」
拓海が少しだけ涙目になって睨み付けてくる。
啓介はその目にちょっと胸が痛んだ。
「そんなわけあるかよ」
「だったら」
「だから、手だけじゃ治まんなくなりそうなんだって」
だから離せと言いたかったのに。
心なしか拓海の顔は嬉しさにあふれて輝いている。
「啓介さん、オレこれでも現役高校生なんです」
「分かってるよ」
「啓介さん自分が18のとき爛れまくってたんでしょ」
「ねーよ! どこ情報だよそれ」
「オレだってそれなりにそういうこと興味あるんですよ」
「シカトか! つーかおまえオレのがまんを無駄にする気か」
「啓介さんだって責任とるべきです」
拓海が下肢をすり寄せてそんな台詞を投げかける。
我慢のあげくぶっ壊れたのは啓介ではなく拓海の理性だというのか。
天変地異の前触れか。
「だめ、っすか」
「っ、…どこで覚えてくるんだよそれ」
拓海は何も言わずじっと啓介を見上げたままだ。
啓介は眩暈を感じながら目頭を押さえた。
2016-07-07
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