ドロップ

啓介さんの何割かは、涼介さんでできてるんじゃないだろうか。
走り屋としての共通点しかないから仕方ないとは思うけどいわゆる「お付き合い」をしている関係で出てくる話題としては、あまりにもな頻度だ。
おかげでオレは、涼介さんのコーヒーの好みも足のサイズだって知っている。
オレだって涼介さんのことは尊敬してるしすごい人だと思うけど、知りたいのは涼介さんの映画の趣味でも読みかけの本のタイトルでもなくて。

「でさ、昨日もアニキがファミレスで…どうかした?」
「啓介さん」
「ん?」
「スポーツ得意ですか?」
「まぁ、それなりに。なんで?」
「実は職場の忘年会でボーリング行くことになってるんですけど」
「うん」
「オレあんまりやったことなくて、その…よかったら今度」
「いいぜ」

即答されて、顔が緩む。
よかったと呟くと、啓介さんはポケットに入れていた手でオレの頬を包んだ。
そっと触れるだけのキスをして、満面の笑みを見せた。
さすがにこんな顔を見せるのはオレだけなんだと思いたい。

「初心者のオレとじゃ、盛り上がらないかもしれないけど」

オレのバカ。
照れくさいからってそんなこと言っちまったらまずいだろ。

「藤原とのデートに他の誰も連れてくわけねえだろ」
「…涼介さんも?」

口から飛び出した言葉に自分でも驚いてしまった。
啓介さんも一瞬固まって、むすっと唇を尖らせた。

「アニキいたほうがいいのかよ」
「…啓介さんとでいいです」
「とで?」
「あっ、いや、…啓介さんと、ふたりがいい…です」
「だよな」

悔しい。
言わせたくせに、甘ったるい眼差しを向けてくるなんて。
だけどそんな顔をさせるのが自分なのだと思うとちょっと嬉しい。
赤くなる耳を寒さのせいにして、抱きしめてくる啓介さんの背中に手を回す。
少しだけ速い鼓動が心地良い。
啓介さんを形成するほんの何割かでも、いつか自分もなれたらいい。
そんなことを考えながら、秋名湖に浮かぶ飴玉みたいな月を見ていた。

2018-07-08

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