おあずけ
卒業したらな。
それが啓介さんの口癖だ。
オレにというよりは啓介さんが自分に言い聞かせるみたいに口にする。
合意の上ならいいんじゃないのかと思うもののなかなかそうは言いだせない。
だから今のオレにできるのはせいぜいキスくらいなんだけど。
「啓介さん、ここ行ってみたいです」
「お? どこだ?」
雑誌を手に、隣で携帯電話を弄る啓介さんとの距離を詰める。
オレの肩にあごを乗せた啓介さんは無防備だ。
不意をついてキスをするとすぐそばにある頬が少し赤くなった。
オレもつられて耳まで赤くなってしまって、啓介さんとは反対側に顔をそらす。
「おまえな。卒業したら覚えとけよ」
ぎゅっと抱きしめながら、ため息交じりに啓介さんが呟いた。
早く春になればいいのに。
最近のオレはそんなことばかり考えている。
2018-07-08
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