あふれる光 2
キスの合間に苦しげな息を吐き出す藤原を見ながら、Tシャツの上で手を滑らせる。
「あ、……っ」
手のひらにずいぶん早い鼓動を感じて、その赤い顔を見下ろすと照れくさそうに見上げてきた。
背中に回る藤原の腕の重みを噛みしめて、唇が触れるか触れないかの距離で自然と笑顔になっていた。
「さすが、余裕っすね」
何が悔しいのか唇を突き出して拗ねたようなことを言う。
「バカ言え」
ゆっくりと下ろされていく腕を引き留めたくてもう一度唇を押し付けた。
「ふ、ッン」
胸のあたりを撫でまわすと、藤原の手がオレを止めた。
「なに」
「ンなとこ触っても、ないっすよ」
「だな」
そう言いながら手は休めない。押さえつけてくる藤原の手はそのままに、Tシャツ越しでも指先に感じる引っ掛かりを少しだけ力を入れて刺激する。ピクリと体を震わせ、藤原はオレの手を止めるように握った。
「だから、ないですって、ば」
「うん」
「だったら、なんで」
理由なんて、いるのか。そう言ったら驚いた顔のまま固まって、視線をそらせた。少しだけ汗が浮かんだこめかみに、オレは引き寄せられるようにキスをした。
「や、……っ」
「やめたい? もうやめとくか?」
「え」
眉間に皺を寄せながら向き直る藤原の顔に少しだけ焦りが見えた。
「さすがにFDの中じゃこれ以上のことできねーし」
体を起こして、ついでに藤原が座り直すのも手伝ってやる。くしゃくしゃに乱れた後頭部の髪を撫でて整えてやると猫みたいにすうっと目を閉じた。すかさず頭を引き寄せて唇にキスをした。
唇の間に舌を差しこんで、そこが開かれるのを待っている。頬に添えているオレの手を藤原がぎゅっと握った。遠慮がちに絡められる舌を逃さないように後頭部を固定する。
「はぁ、は、……啓介、さん」
オレがキスをやめたら、藤原はほぅっと悩ましげな息を漏らした。それに妙にドキドキして、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をする。
「あの、聞いておきたいんですけど、これ以上のこと、ってその、つまり」
「うん?」
「オレと、そのぉ」
「藤原のこと抱きたいと思ってるよ」
もどかしい言葉を繰り返す藤原に、ズバッと言ってやった。
瞬間にぶわっと赤くなった藤原は膝の上で拳を握りこんでいる。
「胸もねーし」
「うん、オレも」
「男、だし」
「うん、オレも」
「つ、ついてますよ、オレ」
「奇遇だな、オレもだ」
藤原はぐっと黙り込んだ。
「で、他には?」
「え?」
「他に、オレとやりたくねー理由、あんのか?」
「や、やりたくないとか、そういうんじゃなくて、ですね」
「あ、そうか。おまえも突っ込みたいよな、そりゃ」
「いい、いや、そうじゃなくて、えっといやそれもあるけど」
「おまえに負担はかけたくないけど、でも、できればオレが抱きたい」
藤原の頭にヤカンを置いたらすぐにでもピーって音が鳴るんじゃねえかなってくらいに赤くなっている。
完全にフリーズした藤原の肩を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
「怖いんなら無理にとは言わねえからさ」
藤原はピクリと肩を震わせただけで、返事はない。ただじっと腕の中でうつむいている。
このままくっついていたら暴走しかねない。藤原の髪に鼻を埋めてからゆっくりと体を離した。
「雨、止んだな」
空気をかえようとドアを開けて片足を踏み出したら、左腕を掴まれた。
「────」
「べつに、……」
ビビってねえし。
消え入りそうな声を拾った耳は果たして間違いなくオレのものなのか。
腕を伝う熱と小刻みな振動は疑いようもなく藤原のものなのか。
逡巡している間に腕に置かれた手が引っ込められて、オレは慌ててそれを追った。
「覚悟できてるんだな?」
「あ、アンタこそ」
そらされた目元も、首まで赤くなっていて、そんな負けず嫌いなところが可愛いと思ってしまったのは藤原には内緒だ。
「上等じゃねえか」
乱暴にドアを閉め、アクセルを踏み込んだ。
目指したのはいかにもなホテルだ。
せっかくのハジメテをと思わないでもないが、オレも、たぶん藤原もそんなこと気にするようなタイプではないような気がする。
目についた一番初めの建物に車を滑り込ませ、ハチロクはどうするんだと焦った声を出す藤原の背中をぐっと抱き寄せて部屋に押し込んだ。
「今さら実はビビってるなんて言わねえよな」
返事を待たず、バスルームに足を進めながら藤原の唇を塞いだ。Tシャツを脱いでベルトにも手をかける。洗面台に後ろ手をついてその動作を見ていた藤原はさっきより息が荒くなっている。
「脱がしてほしいのか?」
挑発的に言ってみれば簡単に乗ってきて、藤原は少し乱暴に服を脱いで全裸になった。
「あんま、見ないで下さいよ」
どこをどう見たって男の体だ。さすがに視覚的に興奮するってことはない。
でもそんなことより緊張して唇を噛んでるところとか羞恥に耐える赤くなった顔とかのほうがよっぽどグッとくる。
「そりゃ無理な注文だ」
言いながら藤原を風呂場に連れ込む。
体を洗い合い、バスタブに湯を溜めている間も藤原にキスして体中を撫でまわす。耳や喉元に舌を這わせて時々強く吸い付いた。藤原の手はオレの首に回っていて、すぐ近くで聞こえる息遣いがたまらない。
「藤原」
動きを止めて声を掛けると、藤原はゆっくりと目を開けてオレを見た。少し潤んだ目元を親指で拭う。藤原は小さく笑んで触れるだけのキスをしてきた。物足りないと伝えたくて唇を舐めたら遠慮がちに舌を絡めてくる。
今日だけでどれだけキスをしたか分からない。いつもみたいに掠めたり目を盗んでするのとは違う、明確な意思を持ったキス。だけどまだまだ足りない。クセになるほど気持ちよくて、ずっと触れていたい。
背中に回した手に力をこめると大人しくオレに跨ってきた。藤原が動くたびに腰のあたりまで溜まってきた湯が音を立てる。腹の間で触れあったソコが火傷しそうに熱かった。前を弄りながら、そろりとその奥に指を伸ばす。
藤原の体は少し硬直したけど拒まれることはなかった。
「い、……ッ」
指を埋めると藤原は小さく声を漏らして、ぎゅっとその唇を噛みしめている。
固く閉じたそこをほぐすように抉じ開けながら、少しでも気を紛らわせてやりたくて執拗に前を擦り立てた。荒く息を吐いてオレの肩に指をくいこませ、気持ち良さと気持ち悪さが混じったような複雑な顔でオレにしがみついている。
無意識なのか耳元で名前を呼ばれ、辛抱できなくなってきた。
藤原を抱えて引きずるように風呂場を出ると濡れたままなのも構わずベッドに押し倒した。枕元にはご丁寧にローションとゴムがセッティングされている。
迷わずローションのパッケージを破って藤原の尻の狭間に塗りたくっていく。
「ちょ、待っ……あッ」
「まだもっとほぐさないと入んねえ」
指二本分くらいじゃ絶対キツイ。つーかこれ入るのか、マジで。
そんな不安を抱きつつも藤原の抵抗を受けながら指を休めずに押し進める。中で曲げたり動かしたりしてると藤原の抵抗がちょっとずつ止んでいく。見上げれば藤原は両手で口を押さえて声を堪えていた。
気持ちよさなんか程遠い感じで、すげー我慢してるって顔してる。
ほぐす手はそのままに藤原の隣に横になって、指の股を舌でつついた。隠れされた唇には全然届かない。それでも構わずその手にキスを繰り返す。
薄い皮膚や間接を唇で挟んで吸ったり手首を噛んだり、だけど藤原はぎゅっと目を閉じて動かない。オレはちょっとずつ唇の位置をずらして、さっきは布越しに指でしか触れなかった場所に吸い付いた。
「ぅ、んんッ」
藤原が体を捩って逃げようとするから、追いかけて舐め回したり周りを吸ったりしてみる。締め付けられた指が内部で角度を変えて、藤原はそれにも反応した。
オレに背を向けて横になって、唇を噛みしめながらシーツをつかんでいる。
「藤原ぁ」
「は、……ぁッ」
「ちょっとは慣れてきたか?」
赤い耳や頬にキスをしながら、やっぱり手は止めずに後ろから藤原を見下ろす。
「そ、そこでしゃべんないでください」
「おまえがそっち向いてるからだろ」
耳の裏や耳たぶを舐めて、首筋、肩口にも吸い付き、そのまま舌を前へ滑らせていく。
自然と藤原は仰向けになるしかなくて、オレは藤原に覆いかぶさってまた乳首を舐めた。痛みのせいか萎えてしまった前への刺激も忘れずに、藤原の表情を見ながら刺激を強めていく。
「け、けーすけ、さッ、そ、ンな、いっぺんにしたら」
「ん、これ気持ちいいか?」
「っく、ない……っ」
そんな可愛くない言葉をイエスと受け取り、じゅっと音がするほど胸を吸い上げる。ひたすらに繰り返してたら、藤原のモノを扱く手がぬるぬるになってきた。
「おまえも触って」
呟くように言うと藤原は息をのんで、オレの首に片手を回した。空いた手が腹の間に下りてきて、遠慮がちにオレのモノを触った。
「……でか……」
その一言に少し笑って、だけどオレの意識は下半身に集中していく。自分のじゃない手で触られるのが久しぶりで、思わず腰を揺らした。藤原は視線を下ろして、手の中のそれを凝視している。
「そろそろ、入れてもいーか」
そう聞けばぎくりと体を強張らせ、だけどゆっくり頷いた。その表情にオレは知らず生唾を飲み込んだ。枕元に置いてあったゴムに手を伸ばし、装着している最中も藤原の視線を感じる。
「なんでそんな見てんの」
「いや、勃ってんのが不思議っつーか、萎えないんだなって、思って」
男相手でも。そんな風に聞こえて、オレは藤原の手を掴んで荒ぶるソコに押し付けた。
「おまえに見られてるってだけですげー興奮する」
「は、アンタ何言ってん……っ」
キスで塞いだ唇から酸素を取り込もうと藤原は顔を振る。逃げる舌を追って口づけると肩を押し返してくる。
その手を取って指を絡め、顔の横に固定してから腰を押し付けた。
「あっ」
手探りで入口を探して、見つけたそこに片手を添えて埋め込んでいく。
侵入を阻むみたいにきつく閉ざされた道が徐々に開かれて、タイミングを見計らって半分くらいいっきに突き入れた。ぎちぎちに締め付けられて、こめかみに嫌な汗がにじむ。
けどそれ以上に藤原の苦しそうな浅い息が耳について、とてもじゃないけど痛ぇとか言ってられない。
「藤原、ゆっくり息吐いてみろ」
「け……すけ、さん」
藤原の声は細く震えて、オレが身じろぐたびに小さな悲鳴が上がる。
できるだけ優しくしたいのに、だけど初めて繋がったっていう喜びで箍が外れそうだ。
「ごめんな短小じゃなくて」
前髪を梳きながら言うと藤原はクスクスと笑った。連動して収縮したそこがオレをぎゅっと締め付けて、その刺激でまた眉根を寄せる。
わざとじゃねえのに恨めしそうに睨み付けてくる藤原にキスをして、浮いた腰の間に片手を差し込む。熱い吐息を感じながら藤原の顔中にキスをした。そのまま啄む位置を変え、乳首に舌を伸ばす。
「あ、ぁあっ」
藤原の手がオレの髪をつかむ。オレは夢中になってそこをしゃぶって、ひっきりなしに上がる藤原の甘い声にどんどん煽られていく。藤原の体を抱きしめながら嬌声に酔いしれてひたすらに腰を振った。
頭が真っ白にスパークして熱を放出しきったあと、ふと気づけば腕の中の藤原はぐったりとしていた。
「やべっ」
いきなり飛ばしすぎたかとオレは慌てて藤原の顔を覗きこんだ。
「大丈夫か藤原」
「……へーきです」
体を起こせば手のひらは藤原の精液まみれで、ひとまず息をつく。
少しだけ落とした照明の灯りに浮き上がる肢体を見下ろし、じっくりとその体を眺めた。
どこをどう見ても男の体で、なのに目が離せない。
「っ、……あの、あんま見ないでください」
「そりゃ無理だって言っただろ」
藤原の中に入ったまま肩や脇腹を撫でていく。
藤原はくすぐったそうに体を捩り、腕で顔を隠してオレの顔を押しのける。何ならさっさと抜けと言わんばかりのオーラを放っている。
「次は藤原がイクとこ見たい」
オレは無防備にさらされた胸にきつく吸い付いた。
「次ってぁ……んッ、や、やめっ」
止めようとオレの顔をつかんだ藤原の目を見つめながら、舌でチロチロと舐め続ける。
恥ずかしさにまだまだ赤くなる藤原はどうしようもないくらい可愛い。反対側も愛撫して藤原のぬるつくソコに手を伸ばす。
「や、もう……っ」
くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら、オレの手に反応を返してくれる。
「こっちはオレに可愛がられたがってる」
「う、うるさっ、あぁ……や、離せ、やめッ」
オレは藤原の願い通りに手を離し、ピタッと動きを止めた。
何でって顔でオレを見てくる藤原が、続けろって言えない藤原の悔しそうな顔が、この上なく扇情的だ。
「ココはそう言ってないけど、おまえはやめてほしいんだろ?」
裏筋を撫で上げつつわざとらしく言いながら唇の皮一枚だけが触れるキスをして体を起こすと、繋がっている部分がぎゅっと締まった。
「ッ、藤原?」
「アンタのせい、です」
オレの首に手を回す藤原が、キラキラっつーよりギラギラしてる。まとう空気はさっきFDの中で見たオーラみたいなピンク色をもっと濃くしたような感じだ。
悔しげに唇を突き出して、それでいて誘うような目で見上げてくる。
「……責任取れよな」
こんな藤原、きっとオレしか知らない。
身震いするほどの歓喜に、誘われるまま藤原に覆いかぶさった。
2016-06-15
サイト4周年記念のリクエスト。「あふれる光 の続編」でした。リクありがとうございました! back