甘い唇

 卒業式の練習なんて必要なのだろうかと、眠気で回転の鈍った頭で考えながら教室を出る。昇降口で靴を履きかえていると、小走りで追いついてきた樹がいつものテンションで、土曜だし今夜は秋名に走りに行こうぜと拓海を誘う。 樹はこれからガソリンスタンドのバイトが入っているらしいが、拓海はこの後は何の予定もなく、家に帰ってひと眠りしようとぼんやり考えていた。
「うーん……今日はやめとくよ」
「なんでだよう」
 特に理由はないが、ただ何となくそんな気分にはなれなかった。校庭のほうからは運動部の掛け声が聞こえ、三階の教室からは吹奏楽部の熱の入った演奏が聞こえる。樹には曖昧に返事をしながら歩を進めると、校門の辺りに人だかりができているのが目に入った。 下校途中の生徒も多い時間帯のせいだろうと思ったが、足を進めるにつれどうやら原因は違うところにあるようで、隣の樹もそれに気づいたようだった。
「たたたたたた、拓海ッ、あれってもしかして」
「……うん」
 色目も鮮やかな、流線型のフォルムが美しい車が校門を出て一つ目の角に停まっている。アイドリングの音が聞こえないのは、一応は遠慮しているという気持ちの表れなのだろうか。
 ほかの生徒と同じく遠巻きにその車を眺めていると、運転席の男がギャラリーの波からすぐさま拓海を見つけた。ドアが開き、車高の低い車から降りたったのは、拓海のよく知る背の高い男だった。 加えて言えば、最近お付き合いを始めたばかりの恋人だ。深い青色のセーターと、すらりと伸びた脚の長さを強調するような細めのジーンズに身を包んだ彼は、脇目も振らずに拓海の前にやってきた。 女子生徒の高い声が響くなか、彼は拓海を見るなり少しだけ口端を上げた。隣にいる樹は声にならない声をあげて拓海の腕をぶんぶんと振りたくっている。 拓海のほうも驚きを隠せないでいたが、樹の隣ではその感情は霞んでしまうほど微々たる変化でしかなかった。
「よかった、まだ帰ってなかったんだな」
「こんなとこで何してるんですか、啓介さん」
「とりあえず場所変えていいか」
 三人を取り巻く好奇の目と騒がしい声にうんざりしたような表情で、がしがしと後頭部をかきながら腕時計に目を落とし、愛車に促す。拓海は啓介の視線が自分の腕に向いていることに気が付いた。 樹が掴んだままのそこをぱっと解いて、アイコンタクトを送る。樹は目を丸くしたまま頭を縦に振って後ずさった。啓介は一瞬だけ樹と視線を合わせ、すぐに踵を返して運転席へと向かう。拓海は樹に向かって軽く手を挙げ、啓介の後を追って助手席に乗り込んだ。 派手な見た目に劣らない音をあげ、黄色い光はあっという間に樹たちの前から見えなくなった。
「啓介さんただでさえ目立つんだから来るなら来るって連絡くらいしてくださいよ」
「おまえ携帯持ってねーじゃねえか」
「う……っ、そうですけど」
 その場に取り残された樹はきっと質問責めに遭っているだろうから、近いうちに温泉饅頭でも買って勘弁してもらおうと考えながらため息をついた。
 啓介の操るFDは拓海の家には向かわず、まっすぐに高崎方面へと走っている。啓介は行先も告げないまま淀みない動きでハンドルを捌き、拓海は啓介の腕に嵌められている腕時計を珍しいものを見るように眺めていた。 信号で止まってやっと、啓介が口を開く。
「藤原って映画とか観に行くほう?」
「映画ですか? いえ、あんまり行かないです」
 そうかと答えながら、啓介がグローブボックスから取り出したのは映画のチケットだった。 拓海の手に渡すと、ハンドルに預けた腕にもたれた。拓海は手の中にある映画のチケットをまじまじと見つめ、どういうことかと啓介に視線を移す。
「それもらいモンなんだけどよ、興味ねえならほかの観てもいいけど、観たいのあるか?」
「って……え、今からですか?」
「だからガッコまで迎えに行ったんじゃん」
 拓海の予定を聞かないどころか会う約束すらしていなかったのに、拓海に断られるという想像は一切していないらしい啓介の言い分に思わず噴き出した。
「せっかくだしこれ観ましょう。子犬と子供の友情と成長を描く感動の物語ってやつでしょ」
「マジで? それファンタジー系じゃねえの?」
「え、はい。CMでやってましたよ」
「動物ものとか弱いんだよなーオレ。泣いちまうかも」
「えー、それちょっと見たい」
 拓海はシートから少しだけ乗り出して啓介の横顔を眺める。期待に胸を膨らませる拓海の視線を受けながら啓介は嘘だよと苦笑いを返し、左手で拓海の顎のラインをそっと撫でた。指の感触にぞくりと肌を粟立て、拓海は慌ててシートに身を沈めた。 信号が青に変わり、啓介は静かにFDを発進させる。滑らかな加速音とラジオから流れる曲に、高鳴る鼓動が重なっていく。
 目的地の駐車場に着くと、啓介は普段と変わらず無駄のないスムーズな動作で車を停めた。リアシートに置いてあったジャケットを手に取り、拓海に声をかける。
「学ラン代わりにこれ着るか?」
「あ、……いえ、大丈夫です」
 啓介はフ、と笑顔を見せると車を降りてジャケットを羽織り、拓海を目で促して歩き出す。拓海はチケットを手に持ったまま啓介に続いて、隣に並んで歩いた。
 すでに開場は始まっていて、啓介が売店でコーラを二つ買うのを待って中へと入った。平日の夕方という時間帯にしては空席は少なく、拓海たちの座席はスクリーンに向かって左後方の通路側だった。 拓海は小さく舌打ちをする啓介に内側に座るよう背中を押して、通路側の端の席に腰を下ろした。まだ少しざわついていた場内の照明が落ち、予告映像が流れ始めた。
「ちょっとわくわくしますね」
 顔を寄せて囁くと啓介が振り向いて危うく唇が触れそうになった。 拓海が反射的に距離を取ると啓介は少しだけ驚いたような顔を見せ、無言のままくしゃりと髪を撫でまわした。ドリンクホルダーにコーラを置いて、かき乱された髪を整える。 きっと啓介にはお見通しだろうが、暗がりのおかげで赤くなった頬を見られなくて済んだ。 横目で啓介の顔を盗み見ると、視線は大きなスクリーンへと注がれている。窮屈そうに収まっている啓介の膝は今にも前の席に届きそうだった。
 いよいよ映画本編が始まった。気が付けば右側の肘掛けは、左手で頬杖をついている啓介に奪われてしまっていた。拓海は座り心地の良い椅子に腰を落ち着けて背を預けると、腹の上で指を組んだ。
 笑いあり、涙ありで思っていた以上に見応えがあって面白い話だ。じわりと目頭が熱くなる場面もあった。ストーリーが進むにつれ、どこか遠くのほうからすすり泣くような声が聞こえる。 もしかしてとわずかな期待に胸を膨らませて隣の啓介を覗き込む。画面の明るさに照らされた啓介の目に光るものは何もなく、拓海はなんとなくがっかりしたような気分になった。小さくため息をつくと、啓介が拓海の手を握ってきた。 啓介の動きはあまりにさりげなく、止める間もなかった。ごく自然に指を絡められ、手のひらから啓介の体温が伝わってくる。離せと言いかけた拓海の唇に、啓介はそっと人差し指を立てた。 照れくささは隠せないが、クライマックスが近づくシーンで誰もが映画に集中している。客席に目を向けるような人もいないだろうと、さすがの拓海も思い留まり、薄く開きかけていた唇をきゅっと引き結んで座りなおす。 上映終了までずっと、啓介は拓海の手を握ったままだった。

 せっかくタダで映画を観に来たというのに、後半は映画よりも啓介とつないでいた手のほうが気になって、内容があまり頭に入ってこなかった。
「さてと、飯どうする?」
 啓介は立ち上がって大きく伸びをしながら腕時計に目をやり、声をかけてくる。 明るくなった場内から次々に人が排出されていくのを見ながら、拓海はまだ薄っすら赤いままの頬を隠すようにうつむき加減に席を立つと、氷が溶けて薄くなったコーラを飲み干した。
「ファミレスでいいか? それか肉でもいいけど……藤原?」
「あっ、あ、えっとファミレスでいいです」
「オッケー。んじゃ行きますか」
 出口へと向かう啓介の後を追って、小走りについていく。 眠そうだとかボーッとしているなんて言われることはままあるものの、いくらなんでもうっかりしていた。 気を悪くしていなければいいと思いながら、FDに乗り込んでからも、拓海はそわそわと落ち着かない気持ちを持て余していた。
 外はすっかり暗くなっていて、街の明かりが視界の端を流れていく。
「どうかしたのか?」
 映画館を出てから一言も喋らない拓海を不思議に思ったのだろう、啓介は視線を前に向けたままで拓海に問いかける。
「あ、べつに……なんでもなくて」
 拓海はなぜこんなにもやもやとした気持ちになるのか、落ち着かない気分になるのかよくわからず、うまく言葉にできないでいた。うつむいた視線の先に、啓介の腕時計が目に入る。 いつもは何もないそこに嵌められた時計は、なぜか拓海の心をざわつかせる。
「映画つまんなかったか? つーか席があんまよくなかったもんなー」
「いえ、そんな全然。すげー面白かったです」
「ならいいけど……おまえさ、なんか変じゃね?」
「え、……そ、そうですかね、ふつうだと思うけど」
 気を遣わせていることに心苦しくなりながら、だけどシフトレバーを操作する啓介の左手の腕時計が目に入るたびに、チクチクと心がささくれ立っていくような気がした。 なるべく視界に入れないようにと窓の向こうに視線を向ける。啓介はたまりかねたように路肩に車を止めると、拓海の肩を掴んで振り向かせた。強い瞳にまっすぐに見つめられ、拓海は息をのんだ。
「フツーじゃねえから言ってんだ」
「……あ、の……その、自分でもよくわかんねーけど……時計、が」
「あー、これか? 今日うっかり携帯の電池切らしちまってたからな」
 啓介は何気なく言いながら左手の腕時計を軽く振った。拓海はぐっと息を詰めて、そこから目をそらせた。
「あんま、……見るなよ」
 最後はほとんど聞き取れないほどの小声で呟いた。真っ赤な顔で唇を尖らせる拓海を見つめ、啓介は小さく笑みをこぼすとおもむろにベルトを外して拓海の学生服の胸ポケットに無造作に放り込んだ。 その重みにはっとして取り繕おうとしたが、もちろん間に合うはずもなく。
「そんじゃ、預けとくな」
「…………」
 くしゃくしゃと頭を撫でてくる、いつも通りになった啓介の手首に、そっと押し付けた拓海の唇はかすかに震えていた。 啓介は拓海の頭をもう一度くしゃりと撫でてからシートに体を戻し、アクセルを踏んだ。拓海は膝の上で拳を握り、自分でも困惑するぐらいの気持ちに、すみません、と小さく呟いた。重い空気のまましばらく走ってから、啓介が口を開いた。
「藤原」
「は、はい」
「学ランのまま連れてきたこと、すげー後悔してる」
「な、んで」
「さすがにホテルは連れて行きづれーからな」
 速度を上げたFDは道中のファミレスも通り過ぎて、高橋家のガレージに華麗に納まった。
 有無を言わさないまま啓介の部屋に連れ込まれ、荒々しく口づけられた。ふらつく足が山積みになっている雑誌にぶつかり、音を立てて雪崩れていくのを気にも止めずに啓介は拓海の唇をふさぐ。 きつく抱きしめながら、拓海の口腔内を貪っていく。はあはあと乱れた息だけが響いて、拓海は懸命にそのキスに応えながら、夢中で啓介の体をかき抱いた。
 制服と、その中に着ていたシャツのボタンがひとつずつ外され、むき出しになった肌を啓介の熱い手のひらが撫でていく。小さく喘ぐ拓海の耳や首筋や、喉にも丁寧に愛撫を施していく啓介の頬を両手で包んで、拓海は自ら口づけた。 ベルトに手をかけていた啓介が、拓海の腰を抱き寄せてキスを深くしていく。舌を絡ませ、体をすり寄せると互いの昂ぶりが擦れ合った。
「……ァッ」
 ベッドに押し倒され、息つく間もなく再び唇をふさがれる。 啓介の首に手を回し、見た目よりも柔らかい髪の毛に指を差し入れた。
「ン……は、けーすけさ……っ」
 啓介は舌をかき回すのと同じような動きで腰をグラインドさせ、制服越しに拓海を煽る。 びくびくと震える体を押さえられていなければ、背中が弓なりに反ってすぐにでも達してしまいそうだった。
「や、ら……も」
「まだイクなよ」
 ゆっくりと下方へ移動していく啓介の唇ははだけた胸をくすぐって跡を残すと、その横の赤く色づいた乳首にきつく吸い付いた。熱い息を吹きかけられ、小さな声が漏れた。
「汚れる前に脱がねーとな」
 楽しそうな声音とともに、スラックスが脱がされていく。啓介は薄い腹筋を指先でたどり、臍の横の柔らかい肌に吸いついた。すっかり勃ち上がった拓海のペニスに口づけて舌を這わせ、舐めあげていく。 亀頭のくびれ部分や鈴口にも舌で刺激を与えられ、拓海は恥ずかしさに耐えかねて上半身を捻って枕に顔を埋めた。くぐもった声に気付いた啓介は顔を上げて拓海の髪を撫で、汗の浮かんだこめかみにキスを落とした。
「声、抑えんなよ拓海」
 まるで顔を見せてくれとねだられているようで、拓海は髪を撫でる啓介の左手を掴み、手のひらや手首に口づけた。
「……ッ、んっとにおまえは」
「んぅ……っ」
 たかが腕時計に振り回された自分を責めることも呆れることもなく、いつもと同じように受け入れ、大事にしてくれる。思いを受け取るばかりではなく、啓介にも気持ちよくなってほしい。拓海の心にそんな気持ちがムクムクと湧き上がる。
 激しいキスに翻弄されながら、拓海は啓介の下肢に手を伸ばした。かすかに眉をしかめた啓介はまだジーンズのボタンフライすらも外していなかった。拓海は唇を合わせたまま手探りでボタンを外しながら、硬度を増しているそこを厚い生地の上から撫でさすった。 啓介の反応に気を良くして、覆いかぶさる啓介のセーターの裾をまくりあげて引き締まったその腹に吸いついた。
「うっは……ッ、おま、くすぐってぇよ」
 体を離した啓介を押し倒し、息を荒げたまま長い脚からジーンズを引き抜くと、ボクサーパンツをずらして啓介のペニスを引っ張り出した。すっかり天を向いているそこを片手でごしごしと擦り、脚の間からちらりと啓介を見上げる。 欲情しきった啓介の目に、期待の色が混じっている。
「舐めて」
 啓介は上半身を起こし、熱い吐息で囁きながら拓海の髪を梳く。耳朶をつまんで促され、拓海はゆっくりと唇を開いた。 熱塊を頬張り唇で扱くと、拓海の髪を優しく撫でていた啓介の指先にわずかに力が入った。
「はぁ、すぐイっちまいそう」
 吐息と言葉に煽られながら啓介のペニスを必死に愛撫する。たとえ拙い愛撫だったとしても、感じてくれているのが嬉しかった。 もっともっと気持ち良くなってもらいたいと夢中になって舐めていた拓海の顎をすくい、啓介は背を屈めて口端にこぼれた唾液を舐めとった。
「あ……」
 どこか不満げな色を含ませた声が漏れ、蕩けた頭のまま啓介を見やると、啓介はクス、と笑った。
「舐めんの好き?」
「ちが……、けど、……啓介さんのだから」
 口元を拭いながら呟くと、啓介は拓海の体をうつぶせにしてジェルを取り出し、尻の間にある窄まりに塗りたくった。
「は、あ……ッ」
 冷やりとした感触に、思わず枕を握りしめた。顔を埋めたそこから啓介の香りが漂ってくる。
「ずいぶんかわいいコト言ってくれるじゃねえか」
「ん、んん、けぇすけさ……っ、もう、やば、ぁあッ」
 啓介はうなじから耳にかけてを味わうように丹念に舌を這わせる。熱い息を吹きかけられ、耳の穴を舌でくすぐられると上半身を支える腕から力が抜けてしまう。 啓介の指先が埋められた部分はすぐに熱を持ち始め、前も後ろも同時にいじられ、期待感も相まって拓海はあっけなく達してしまった。 拓海のペニスの先端からこぼれた液体はパタパタとシーツを濡らして色を変えていく。
「まだイクなって言ったろ」
 あらゆる場所を攻められて、性的なことに関しては啓介に比べてまだまだ初心者に近い拓海が我慢などできるはずがなかった。 苦しい姿勢で振り返ると仰向けにされてシーツに押し付けられ、拗ねるように突き出した唇に歯を立てて舌を吸われた。敏感になった体はふるりと震え、こめかみに浮かんだ汗が流れていく。 啓介は軽いキスをして体を起こすと、膝裏を持ち上げて拓海に抱えさせ、浮き上がった腰の下に枕を差し込んだ。さらにジェルを追加して拓海の秘所にゆっくりとペニスの先端を埋めていく。 熱の塊がじわじわと拓海の体を押し広げ、侵入してくる。啓介の動きに合わせて息を吐き、顎を仰け反らせて圧迫感に耐える。
「ん、全部入った……痛くねえ?」
「くるし、ぃ、けどッ、へーき、です」
 膝を割り開いて覆いかぶさってくる啓介に向かって腕を広げ、抱擁をねだった。
「も、たまんね。動いていいか?」
 拓海の顔中に羽のようなキスを散らしながら、小刻みに抽挿を始める。頷いて舌を差し出せば望んだように絡み取られ、いっそう強く穿たれる。濃藍色のセーターに頬を寄せると、汗と、啓介が好んでつけるコロンの香りが鼻孔をくすぐった。 啓介の首筋に口づけ、耳朶を唇で挟むと拓海の耳元で熱い息が漏れた。体を起こした啓介は、腰を揺すりながら拓海の口内に差し入れた指で舌を扱く。拓海は啓介の昂ぶりを愛撫するのと同じように指をしゃぶった。
「エロいね」
 唾液にまみれた指で拓海のペニスを握り、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら扱きあげる。出したばかりのそこは素直に反応を示して勃ち上がっていく。快感で背がしなった拍子に、内部の敏感な腺に啓介の先端が擦れた。
「うあ、ああぁっ」
 啓介は悟ったように片手で拓海の腰を掴むと、狙いを定めて何度も腰を突き入れる。そこを突くたびに甘い声が漏れ、亀頭を包む啓介の手のひらにぴゅくぴゅくと白濁が吐き出されていく。それでも動きを止めずに拓海を追い上げていく。 拓海の片脚を高く持ち上げ、ふくらはぎを甘く噛み、踝や土踏まずにまで舌を這わせた。
「へ、へんたいっ」
 恥ずかしさに耐えきれず拓海が逃げようと体を捩れば、啓介は腰を進めて甘やかにそれを咎める。
「制服のままだとすげーワルイコトしてる気分」
 言いながら拓海の両脚を肩に掛けて膝が胸につくほど折り曲げる。キスで唇をふさがれながら真上から突き刺すように中を抉られて、意識が飛んでしまわないように必死にシーツを握りしめた。 酸素を求めて顔をそらすと、啓介がいよいよ活塞を速めて互いの肌が音を立ててぶつかる。限界近くまで張りつめたペニスを扱かれ、ひゅっと息を飲み込んだ。
「ゃあっ、あ、も……ぃく、けぇすけさ……いっしょ、にっ」
「ああ、オレも……ッ」
 拓海は自分の顔にかかるほど白濁を迸らせ、啓介も拓海の中からペニスを抜いて腹の上に熱を注いだ。
「あー、ごめん藤原」
 啓介は息を乱し、力なくキスをしながら拓海の隣に体を横たえた。 放心状態で状況を把握できない拓海は軽く頭を上げて腹を見た。
「……あっ」
 身にまとっていたままの学生服に、飛び散った精液が付着している。みるみる思考が戻ってきて、尻に走る痛みも構わずに起き上がった。
「うわ、ちょっとどーすんですかこれ」
「クリーニング代出すから」
「そういう問題じゃ……って、ちょっと、何寝ようとしてるんだあんたッ」
 横たわる啓介を揺り起こすと、啓介のセーターにも白いものが飛んでいるのが見えた。それには口を噤んで、ひとまず学生服を脱いで確かめる。あちこちに飛び散っていて、いっそ水で洗ってしまったほうが早いかもしれない。 明日が休みとはいえ卒業式も近いこんな時に、なんてことをしてくれたんだと啓介を睨むと、えへへと愛想笑いを返してきた。拓海は啓介の顔に制服を突き付けて今すぐクリーニングに出すよう詰め寄った。

 啓介の服を借りて、啓介の部屋でひとり、広いベッドの中で布団にもぐり込んでいる。あのまま二本目に突入しようとする啓介をやっとの思いで説き伏せて、しぶしぶながらクリーニング店に向かった啓介の帰りを待っているところだ。 今にもくっついてしまいそうな上下の瞼が、耳に飛び込んできたエキゾーストのおかげでパッチリと開いた。きれいな流線型のフォルムがガレージに停まって、ドアの閉まる音が遠くに響く。 音だけを頼りにイメージしながら啓介が戻るのを待つ。寝たふりをしようか、どうしようか、布団の中で考えているうちに、階段を上る啓介の足音が聞こえてきた。
「藤原ー、明日の夕方にはできるってよ」
 啓介は自室のドアを開けながらそう言って、ベッドへと飛び込んできた。こんもりと膨らんだ布団の上から拓海を抱きしめ、ちらりとのぞいている耳を食む。
「ちゃんとおまえの言うとおりにしたぞー」
 だからいいだろと、甘く掠れた声で囁いてくる。だけどもとはといえば啓介の責任なのだから、ご褒美をあげる必要もないのだ。拓海は振り返って啓介と視線を合わせるとよしよしと頭を撫でてまた布団にもぐり直した。
「は?」
 一瞬の出来事だった。呆気にとられた啓介はハッとしたように拓海がくるまっている布団を力任せに剥ぎ取って、膝を抱いて丸まっている拓海を見下ろした。
「なんだよ、今の」
 首筋まで真っ赤に染めた拓海はただ口を尖らせてだんまりを決め込む。啓介の顔も同じように紅潮していたが、自分でもやってしまったことに対して言い訳が浮かばず、ひたすら耐えるしかなかった。
「おま……っ、自分で照れてんじゃねえよ」
 勢いよく抱きついてくる啓介から隠れるように両手で顔を覆うと、あっさりと手首をつかまれてしまった。観念して見上げると、嬉しそうに笑う啓介と目が合った。
「どうしてくれんだ」
「……なに、が」
「ココ、藤原のせいで全然おさまんねーんですけど?」
「オレのせいじゃ、……あっ」
 啓介が強引に膝を割り開き、股間を押し付けてくる。ぎくりと体が強張り、ベッドの上で後ずさるように啓介から逃げると問答無用で腰を掴まれてしまった。
「あ、あの今何時ですか? オレちょっと腹減ったなぁ……なんて」
 ヘッドボードの時計を見上げると、それを遮るように熱い手で両頬を包まれた。
「藤原はオレといっしょにいるときに時間なんて気にしねえよな?」
 そう囁かれ、頬が紅潮していくのがわかる。痛いところを突かれてしまった。今日の拓海には時間を気にする権利はないに等しい。表情に悔しさをにじませると、啓介は勝ち誇ったような笑顔でキスの雨を降らせる。
「けど、腹減ったのは、ほんとうです」
「さっきピザ頼んでおいた」
 悔し紛れに呟いてなんとかこの体勢から逃れようとする拓海のもくろみはあっさりと覆され、啓介の侵攻は止まらない。 少し大きなTシャツの隙間から遠慮なく啓介の手が入って拓海の弱点を攻めてくる。
「ぅあ……っ」
 指先で乳首を摘ままれ、首筋や耳の中まで舐められて思わず甘い声が上がった。 無意識のうちに啓介の背に腕を回し、力いっぱい抱きしめてしまっていた。深いキスで唇をふさがれ、ハーフパンツの裾から手を差し込んで脚を撫でる指先の感触に意識が奪われていく。
「は、けーすけさ、……んッ」
「どうする? やめる?」
 掠れた声で耳打ちされ、敏感に反応を示してしまう。小刻みに震える体を撫でまわす手を掴んで、正面からじっと見上げる。
「────やめらんないくせに」
「────よく分かってるじゃん」
 きっと啓介にはお見通しだろうが、離れたくないのももっときつく抱き合いたいのも、すべて啓介のせいにしてしまおう。指を絡めて顎を上げ、啓介の唇をそっと食んだ。触れ合わせるだけの唇が交差して、目を閉じればそれを合図に深く深く口づけられる。 隙間もできないほどに体を抱き寄せ、脚を回して捕まえる。鼻先で頬を撫でて笑みを浮かべ、瞼や顎にもキスを送り合う。
 読みより早く到着してしまったピザ屋を少しだけ待たせて、啓介は階段を転がるように駆け降りた。拓海は啓介が穿き忘れたジャージを手に慌てて追いかける。 玄関の扉が開く前に追いつくとお礼代わりのキスをされ、そそくさと逃げるようにリビングのソファに飛び込んだ。
「おーし、食うぞ藤原。まずは腹ごしらえだ」
「……ハイ?」
「食ったら風呂でもう一回」
 啓介は極上の笑みを浮かべると、言葉に詰まって固まる拓海を抱き寄せてキスを送った。

2014-03-07

サイト2周年記念のリクエスト。
「めっちゃラブな2人の現役学ランプレイ」でした。リクありがとうございました! back