たくみたらし
「啓介さんは何も分かってない」
そう言われて慌てて、どこが感じるポイントなのかとか、どのくらいなら多少痛くても我慢できるかとかそういうの手探りでちんたらやってるからもどかしくて気持ちよくねえのかなんて情けないことを口にする。
そしたら壊れ物みたいに優しくしたり、女扱いなんてしなくていいんですと口を尖らせる。
「オレは藤原のこと女扱いしたつもりなんてない」
腰の動きを止めて、まっすぐに目を見て告げると何も言わずにプイッと横を向いてしまった。
確かにオレの猛りきったブツを藤原の中にぶち込んでるようなこんな状況で言っても説得力に欠けるかもしれねえけど、その態度はねーんじゃねえのって。
オレだって男は藤原しか経験ないし、本当は今だってめちゃめちゃ腰振りたくって骨の髄まで貪り尽くしたいのを結構頑張って堪えてるってのに、何も枕で顔まで隠すことねえだろ。
「好きなヤツ大切に扱って何が悪いんだよッ」
思わず枕をはぎ取って大きな声を出したら、耳まですっげー真っ赤になってて。
「オレがどんだけ気持ち良くても……藤原が気持ちよくなってくんなきゃ、意味なんてねーのに」
辛抱できなくなって、ゆっくりと出し入れを再開しながら耳元で囁く。
穴の中に舌を差し込んで舐めまわして、耳たぶに吸い付いた。オレを包み込む藤原のナカが熱くて、きゅっと締まって、藤原の指がオレの腕に爪を立てた。
「い、い、……からっ、も、さっさと……、ァッ」
負担のかかる行為を受け入れてくれて、だからせめてめちゃくちゃ気持ちよくしてやりたいって思ってるだけなのに、さっさと動いてイッちまえは愛がなさすぎねえか?
「どこが気持ちイイのか、言えよ」
「ンなこと、……言わなくっても……あッ」
分かるでしょうがって、バカ言うな。
そりゃ何ヶ所かは藤原が感じるところは覚えたし、他にもいくつか見当はついている。けどそれがオレの独りよがりとか思い過ごしとかじゃないっていう確証が欲しいんだ。
体はちゃんと感じてくれてるんだろうって分かるけど、いつだって辛そうに眉間にしわが寄ってるし声だって押し殺してばっかりで、藤原のイイ顔引出すのだって毎回楽しみだけどオレだけが楽しいんじゃ意味がない。
「ココ、とかそれとも……こっち?」
「ん……、けぇすけさッ」
「な、気持ちい?」
藤原ン中が気持ち良すぎて、正直なところじっと観察してる余裕なんていつだってないんだけど、藤原はそう思ってないらしい。
この行為が辛いばっかりだなんて思わせたくない。藤原にはもっと気持ちよくなってもらいたいしオレを欲しがってほしいし、不器用でもへたくそでもいいから素直な気持ちを伝えてほしい。
「ゃ……も、焦らす、なよ……ッ」
「……ふじわ」
顔をがっしりと掴まれて、思いっきりキスされた。藤原からの、超絶ディープキス。
「いっつも余裕で、オレばっかこんなんなって……ンッ」
やべーやべー、腰が止まんねえ。余裕なんてあるはずねーのにあんなキスの後で耳元でもっと、なんて言われたら、かろうじて残した理性が根こそぎ持って行かれちまう。
キスしたまんま、藤原ん中に全部取り込まれちまうようなすげー熱に体も心も全部焼かれて、オレはいつか藤原を壊してしまうかもしれない。
「あ、啓介さ、……、も……出るッ」
小さな悲鳴を上げた藤原にひと際ぎゅっと締めつけられて、ほとんど同時にオレも藤原の中に出してしまった。
ハアハア言いながら、離れた唇が惜しくて追っかける。
藤原の唇はまるで危ないクスリみたいに、オレを惹きつける。何度も何度も、それこそ腫れるほど貪っても足りないくらいにずっと触れていたい。
「オレは、……壊れたりしません」
顔を見せないようにオレの体を抱きしめて、ぼそっとそんな台詞を囁いた。
「そんなヤワじゃねーし、……変に遠慮されるほうが、困る」
「困る?」
少しだけ体を起して藤原の顔を覗き込む。
相変わらず真っ赤で、目が少しだけ潤んでる。
「あ、あんたいちいちどうなんだって細かく聞いてくるから……、そういうの、マジで止めてください」
「だって、一緒に気持ちよくなりてーじゃん」
何が悪いんだよって顔で聞いたらますます困ったような顔をして、きゅっと口を結ぶともう一度オレの体に抱きついてきた。
「だからあんたは分かってないっつーんですよ」
まるでヤケッパチに吐き捨てて、黙り込んでしまった。甘えてるのか怒ってるのか拗ねているのか、全然分かんねー。
藤原の体を抱きしめ返して、首筋に鼻を寄せた。
少し汗ばんだそこに舌を這わせて、ちゅっと音を立てて吸い上げる。少しずつ場所を変えて、何度も藤原の首に吸い付いた。
「藤原」
たまらなくなって名前を呼びながら藤原の顔を覗き込んだら、眉間に深く皺を刻んで唇がきつく結ばれていた。ついでにちょっと目元も潤んでて、オレはいよいよ焦って涙がこぼれないように唇を寄せた。
「……ッ、それ、わざとなんですか?」
「へ?」
肩を押し返して上目遣いにオレを睨む藤原は、やっぱり顔が真っ赤になってて尖る唇に惹かれて指でなぞるとムスッとした顔で押し黙ってしまった。
「何がだよ」
形だけ突っ張った腕には力が入ってなくて、顔を寄せるとごく自然にするりとオレの首に回った。
ツンと突き出た唇を甘く噛んで舌を差し入れる。
藤原は大人しく目を閉じるとオレの舌を招き入れて抱きしめてくる腕に力を込めた。キスが深くなるにつれ、藤原の中にいるオレが力を取り戻していく。1回や2回じゃ物足りないんだからそれは仕方ない。
それを感じ取ったのか浅く息を吐き出してまさか、という表情でオレの顔を見つめている。
「……なあ、わざとって何だよ」
藤原に正面から見つめられるのは好きだけど、照れくさくて耳元に顔を寄せて囁いた。
「ん……ッ」
ピクッと震えて、必死に唇を噛んでいる。
「もしかして……耳、感じる?」
さっきと同じように囁くような声で聞くと今度ははあっと大きく息を吐きだした。
目の前には真っ赤になった耳たぶがある。柔らかいそこを舌先で舐めてみると藤原は面白いほどびくびくと体を震わせた。
「ココ、気持ちいいのか?」
「ん、……ゃ、ぁッ」
耳から首筋に沿って舌を動かしていくとどうやら藤原は声を堪えきれないみたいだ。顎から喉元にも舌を這わして藤原がどういう反応をするのか確かめる。鎖骨や乳首のすぐ傍に唇を落とすとくぐもったような声に変わった。
見上げると藤原は両手で口元を押さえている。そんなことをされると、ますます声が聞きたくなってくる。両腕を掴んでシーツに押し付け、乳首をきつく吸い上げた。
「……ぁ、あッ」
掴んだ腕に力が入って、必死に振りほどこうとしているのが分かる。離してやるかと腰を進めて突き上げるとひと際甘い声が上がった。その声に、くらくらと眩暈がしてくる。
理性が飛びそうなくらい、煽られる。ガチガチに、完全に硬度を取り戻したオレの分身を藤原の中に打ち込んでいく。藤原の腰を掴み直してさらに奥まで抉るように侵入させる。
ギリギリまで引き抜いては、これ以上の隙間はないほどまでに楔を打ち込む。藤原は性急なオレの動きに耐えながら薄っすらと開いた目でオレを見上げて自分のものを扱きだした。
「クッ、藤原……ッ」
貪るようにキスをして、内に籠もった劣情を注ぎ込むように舌を絡める。気遣う余裕なんてこれっぽっちも残ってない。ただただ自分の欲望をぶつけるしかできない。
「けぇすけ、さ……ッ」
「好きだ、藤原ッ」
無意識に飛び出した言葉に、藤原の中がさらにぎゅっと締まった。
「ごめ、全然、優しくできねえ」
あまりの快感にこれ以上はもう保たない。がむしゃらに腰を振って、藤原の体を力の限り抱きしめる。
「そんなの、いい、から……も、っと……ッ」
藤原の放った言葉の後、オレは自分の記憶が確かじゃない。
ふっと目を開けると藤原がオレの腕の中で寝息を立てていて、だけど一応はぶっ放した精液だのなんだのを拭き取る気力は残っていたらしい。オレの体も藤原の体も、真っ裸なままでもある程度は小ぎれいになっている。
藤原の前髪を梳いて額に口づけ、もうひと眠りするかと体勢を整えて目を閉じた。
しばらくするとそろりと起き上がった藤原がオレの髪を梳き、額や頬にキスをした。それから少しだけ迷って、唇にも触れた。
眠りに落ちそうだったところを引きとめられて、まさか藤原がオレの寝込みを襲うような可愛いことしてくれるなんてとにわかに信じられず、思わず目を開けてしまいそうになって何とか耐えた。
「……あんたに余裕がないほうが、オレは嬉しいんですよ」
「それって……どういう意味?」
寝たふりを決め込むつもりだったのに、藤原の言葉にうっかり返事をしてしまった。しかも誤魔化しようのないほどはっきりと、しっかりとした口調で。
「お、起きてたんですか」
「……いや……寝ようとはしてたんだけど」
暗闇で見えなくても分かる。たぶん藤原はものすごく顔が真っ赤だ。
「それより、今の」
藤原の体を抱きしめる。
髪にキスをして頭に顎を乗せた。藤原は観念したようにオレの背中に腕を回して深呼吸を繰り返す。
「別にただ……オレばっかいいように振り回されるのがいやなんです」
「はぁ……?」
いったい誰がいつ藤原をいいように振り回したのかと問いただしたくなった。オレのほうこそ十分振り回されている。
「いっつも焦らすし、いじわるだし、気持ちいいのかとか……変なことばっか聞くし、オレの反応見て楽しんでるとしか思えない」
焦らすも何も、カッコ悪いが余裕がないだけだ。いじわるだなんて、人聞きが悪い。今までこんなにも手探りで進めたセックスはない。それをいいように振り回しているなどと感じさせているとはオレのプライドに傷がつく。
「それは別に変なことじゃねえだろ」
「と、とにかく、そういうこと聞いたりする余裕がない啓介さんのほうが、オレは……」
語尾が消えて行った藤原の体を少し離して視線を合わせる。
「……オレは?」
「また、そうやって……ッ」
「余裕なんかねえよ」
うつむきかける藤原の顔を両手で包んで引き止める。もしかして藤原の頭の中でオレは、モテモテで女たらしで経験豊富で百戦錬磨で、なんてイメージが固まってるんじゃねーだろうな。
「いつだって、おまえといると余裕なんかねえ」
「啓介さん」
暗闇に慣れた目が、藤原の顔を捕らえる。分かってねえのはおまえのほうだ。
「ただ藤原が好きで、必死なんだよ」
こんなカッコ悪いこと言うつもりなんてなかった。だけど藤原には、そういうところも全部ひっくるめて、オレのことを解ってほしい。
「藤原が、好きだ。オレの全部が、おまえを欲しがってんだよ」
体を起して藤原に覆いかぶさり、瞼も唇も、喉仏も首筋も、目につく場所全てにキスをして口づけるたびに小刻みに震える藤原の体をきつく抱きしめる。耳元に唇を寄せ、もう一度好きだと告げた。
「んん……ッ」
やっぱり藤原は耳が弱いらしい。そんなことに気を良くして、オレは何度も藤原の耳や首筋に吸いついた。
「信じられねえなら何度でも言ってやる」
掠れた声で囁いて、藤原の首筋に何個目かの朱を散らす。
「啓介さ……んッ、も、分かった、から」
「本当に?」
「……ほんと、に」
コクコクと何度も頷いて、オレの体を抱きしめ直す。そのままふう、と安心したように息を吐くとオレの肩に顎を乗せた。
耳に当たる藤原の髪がさらさらと流れて音を立てる。少しだけ頭を動かしてその髪に鼻を埋めた。
「んッ、啓介さんが無自覚だってこと、ちゃーんと分かりました」
「何だよそれ、意味わかんねー」
まるで呆れたような口調に思わず体を離して藤原を見ると、オレの視線から逃れるようにそそくさと布団の中に潜り込んだ。
「じゃ、オレもう寝ますんで」
「無自覚ってどういうことだよ、おいこら、寝るな藤原」
藤原の体を揺さぶっても、背中を向けて横になって本格的に眠りに入るつもりらしい。
「オレのこと大切にしてくれるんなら寝かせてください」
「うわ、冷てえ」
ばっさりと切り捨てられて、勝負はついた。なす術なくのそのそと布団に入り直し、藤原を背中から抱きしめる。
どう出るかと咄嗟に身構えたけど、藤原は一瞬反応を見せただけで、そのまま拒絶することもなく大人しくオレの腕に納まった。
「……おまえのほうが余裕じゃねえかよ」
悔しくて耳元で囁いてみたものの、たいした反応は返ってこなくて藤原のあっさり加減に落ち込みもしたけど、朝起きて、案外そうでもなかったってことを理解するまでの数分間、オレは藤原の眼の下にある隈に釘づけだった。
2012-06-05
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