静かな夜
12月に入り、少しばかり忙しさが増してきた拓海は、これから年末にかけてのハードスケジュールを想像しながら憂鬱な気分を抱えていた。
このままの予定でいけば、どう考えてもクリスマスに体を空けられそうもないのだ。
拓海自身はクリスマスにさほど思い入れもなく育ったせいか、仕事があることはたいした問題ではない。
しかしながら、告げなければいけない事実は事実としても、近づいてくる年に一度のイベントに期待に胸を躍らせているだろう人物を明らかに落胆させてしまうことを思うと気が重い。
久しぶりの逢瀬ならなおさらだ。
明るい月夜の中、高崎で待つ恋人のもとへとハチロクを走らせながら車内で一人ため息をつく。
「来させて悪かったな。混んでなかったか?」
「いえ、大丈夫です」
本格的な繁忙期に入る前に会いたいと連絡を入れたのは拓海のほうだった。
翌日が休みで豆腐の配達がない日を選んで告げると二つ返事で承諾してくれた。
階段を上る背中を見つめながら後に続き、物で溢れかえったいつもの部屋へと足を踏み入れる。
ドアを閉めるなり、部屋の主は振り返りキスを仕掛けてくる。片手で腰を抱き、指先で顎をすくわれる。間近で見つめられ、さあっと頬が熱くなった。
拓海は目を閉じると自ら軽く口づけ、ぎゅっと抱きついた。
「どーしたよ、珍しい」
拓海の背に腕を回して抱きしめながら、嬉しそうな声音で言う。
「啓介さん」
「ん?」
「あの……」
嫌なことは後回しにするよりも、早く言ってしまえば気が楽になるかもしれないと思っているのに、この笑顔を見るとなかなか言葉が紡げない。
「あの、……えと、も、っと」
「ん、ふじわ……っ」
もう一度口づけ、唇の隙間から舌を差し込み中を探る。啓介は幾分驚いたような表情を見せたあと、拓海に応えるように舌を絡めた。
「ぁ、……っ」
キスをしながら、啓介は乱雑に散らかった足元の隙間を巧みに縫ってこの部屋の唯一の居場所であるベッドへと誘導していく。弾力のあるスプリングが二人分の体重を受けて軋んだ音を上げる。
「あ、……あの」
「なんだよ」
唇が離れた隙に言葉を発し、覆いかぶさる啓介の胸を押しとどめる。すっかりその気になっている啓介の顔を見て、ますます言い出しづらい気持ちになった。
「あの、実はですね、その……クリスマふ……」
啓介は拓海の言葉を遮るように唇を塞ぐと、上顎をなぞって熱く濡れた舌をつつき、絡め取る。裾から忍び込んだ啓介の熱い手が脇腹を撫でた。
拓海は敏感に体を震わせ、もどかしげにトレーナーを脱ぐと無言のまま啓介のセーターにも手をかけた。薄いTシャツ姿になるとまた唇を合わせ、深く貪っていく。
「はっ、あの……啓介さ、クリスマスは仕事が……あぁッ」
生地越しにきゅうっと乳首を摘ままれ、またも言葉を遮られてしまった。痛いくらいに痺れたそこを剥き出しにされ、今度は舌で弄られる。わざと音を立てて吸い、しこった先に軽く歯を立てられた。
「ひぅ……ン、ぃ、たッ」
「藤原ぁ、腰揺れてんぜ」
耳元で囁きながら、啓介はジーンズの上から膨らみ始めた拓海の股間を撫で回した。
「あ、あッ、啓介さ……」
敏感に反応を示す拓海を見下ろしながら、しかし啓介の手はあっさりとそこから離れてしまった。拓海はもどかしさに焦れて啓介を抱き寄せると腰を押しつけてねだった。
「さ、わって……ッ」
「スイッチ入るの早くね?」
からかうように言いながら、啓介は拓海のジーンズの前を寛げると下着の中に乱暴に手を突っ込んだ。待ち望んだ直接的な刺激に拓海の背がしなる。
「あぁっ、……けーすけさ、ン、ン」
拓海は啓介の手の動きに合わせて腰を揺らしながら口づけ、ちゅくちゅくと粘着質な音が下腹部から聞こえてくるのも構わず、夢中で舌を絡める。
「オレのも触って、藤原」
唇が触れたまま囁かれ、小刻みに頷いておずおずと啓介の昂りへと手を伸ばした。ジーンズのボタンフライを外す手が震えてもたつくと、啓介は咎めるように拓海の雄を強く扱いた。
「! やめ、……ぁ、あッ」
「ほら、早く」
鈴口を指の腹でぐりぐりと擦られ、ますます思うように手が動かない。それでも何とか啓介のものを取り出し、ドクドクと脈打つ熱い茎を扱く。目の前にある顔が官能に歪み、眩暈を覚える。
「は、あ、啓介さん、気持ちいい……?」
「ん、おまえの手、イイ」
素直な反応が嬉しく、刺激を与える手の速度を速めると、啓介の手も同じように拓海を追い上げていく。啓介は少し体の向きを変えて先端を触れ合わせると、拓海の手ごとまとめて握り込んだ。
熱い吐息が頬にかかるほどの近い距離で、啓介は艶めかしい表情を隠そうともせず、直接的な刺激だけでなく、目からも耳からも拓海を犯す。
全身に血が巡り、じわじわと体が熱くなっていく。キスで溶かされ、拓海の体の奥にまで熱が灯り、疼き始める。
「けぇすけさ、これ、も、ぃ……れ、たい」
頬をすり寄せ、か細く震えた声で求める拓海の言葉に、啓介は動きを止めた。
止めたというよりは欲情しきった拓海の表情に見惚れて固まったというほうが正しいかもしれない。
ハアハアと荒い息を吐きながら、それでもまだ僅かに残った理性が啓介の獣性を押さえこむ。引出しから忙しなくジェルを取り出して、うつ伏せにした拓海のジーンズを脱がせると、後孔に塗り込んでいく。
手の動きがいつもよりは急いているが、拓海の呼吸を見ながらの余裕は微かに残っていた。
「けーすけさ、も、いいから……ぁッ」
「おまえ、……クソ、知らねえぞ」
拓海の一言に啓介の理性を繋ぎとめていた最後の糸が切れ、啓介は半ば勢い任せに猛り切った自身を捩じ込んだ。
「ああぁッ、……つぅッ」
拓海は枕に顔を埋めて声を殺し、痛みを堪える。
啓介は震える拓海の肩に口づけを落とし、首筋や耳に舌を這わせるとゆっくりと抜き差しを始める。
「はッ、すげーよ拓海ン中、たまんね」
熱を帯びた啓介の吐息が耳に注がれ、拓海の唇から甘い声が漏れた。
「はあ、ぁ、んっ」
啓介は拓海の腰骨の辺りを親指で撫でさすり、指先に力を込めた。ツボを刺激され、快感が波のようにせり上がってくる。
枕に額を擦りつけて襲いかかる快感に耐える拓海に追い打ちをかけるように、腰を掴んで持ち上げると四つん這いにさせ、根元まで一気に突き入れた。
「ああッ!」
続けざまに穿たれ、その刺激に堪え切れずにがくりと上半身が崩れて尻を高く突きだす格好になった。啓介は自身の快感を追って抽送を繰り返すが、拓海は再び枕に顔を埋め、必死で声を抑えている。
「なあ」
啓介が腰の動きを止め、上半身を屈めて拓海の耳に唇を寄せると、その刺激で内部がぎゅうっと締まった。
「んん……ッ」
「なんで声我慢するんだよ」
「ぃ……ッ」
耳の穴に舌を差し込まれ、放置していた拓海の陰茎にも手を伸ばしてくる。逃げようとする腰をも押さえつけてくる啓介の重みが加わり、力の入らない腕では支えきれずにベッドに突っ伏してしまった。
苦しい姿勢で振り返ると啓介は汗を浮かべて笑顔を向けている。
「ぁ……、ぇすけさ、……ッ」
顎を上げると、拓海の望みを察したように唇を合わせてくれる。
一瞬触れ合った舌が離れ、啓介は体を起こして拓海の脚を掴み、自身を中に埋めたままぐるりと拓海の体を仰向けに返した。
「あ、ぁあッ」
悲鳴のような声を上げた拓海を宥めるようにもう一度唇を重ね、舌先で上顎を撫でる。汗で額にはりついた拓海の前髪を梳き、零れる涙にも唇を寄せた。
啓介は顔中にキスをしながら快感を堪え切れずに腰を揺すると、拓海の表情が柔らかく蕩けた。
「ふっ……やっぱこっちからのほうが好きか。動くぜ?」
拓海は返事をする代わりに両脚を啓介の腰に回し、薄く唇を開いて舌を覗かせた。
「上等……っ」
拓海だけでなく啓介のほうも絶頂は近かった。
差し出された拓海の舌を絡め取り、唇を重ねたまま活塞を速めて最後の追い上げに入る。肌がぶつかる音が激しく、小刻みになっていく。
「やべ、も、出るから、離せ藤原……ッ」
「……ぁッ、も、い……くッ」
絡みつかせた脚を啓介の腰に回したまま、一足先に限界を迎えた拓海が腹の間に白濁を飛ばした。締め付けがきつくなり、啓介はしがみついてくる体を抱きしめたまま拓海の中へと熱を注いだ。
乱れる息を感じて、痺れるような甘さが体中に広がった。
「んッ、……はぁ……」
「ばかやろ、おまえ、中に出しちまったじゃねえか」
啓介が拓海の額に口づけながら体を起こしてずるりと引き抜くと、ん、と息を漏らして仰け反った。
呼吸を整えているうちにだんだんと熱が治まり、思考がクリアになってくる。気恥ずかしさに固まっていると、啓介は拓海の腕を引き寄せて立ちあがった。
「風呂入ろうぜ。中のやつかきださねえと」
「なっ、そ、そんなの自分でやりますから」
真っ赤になって拒否する拓海にぐっと近寄り、吐息で囁いた。
「オレにやらして、拓海」
それに一層照れて全身を赤く染め、言葉に詰まってうつむくと、零れた液体が太腿を伝って流れ落ちた。
「ほら、早くしねえと」
「あ、でもここ拭かないと……ッ」
「あとでいいよそんなもん」
手早くトランクスとTシャツだけを着せられ、半ば強引に腕を引いて部屋から連れ出された。
2013-12-12
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