空色
藤原が、オレのベッドで眠ってる。
なんでここにいるかって言うと、外は真夏の太陽がぎらぎらと照り返して、クーラーが効いてなけりゃ溶けそうなくらいに暑い真昼間から強引に呼び出したからだ。
せっかくの休みに、と文句は言いつつ拒絶はしない。そういうとこが、すっげーかわいい。
呼びつけられたのに律義に差し入れですと持ってきたペットボトルのお茶を受け取りながら、藤原の唇を思う存分貪って、それから昼飯作ってやるからって宥めすかして機嫌とって、部屋で待たせてたらこんな状態になっていた。ま、予想はしてたんだけどな。
明るい陽射しの中、藤原の寝顔を存分に楽しもうとベッドの脇に腰を下ろして、藤原が来る前に取り替えた空色のシーツに肘をつく。ぎしりと軋んだその音も、夢の中にいる藤原には聞こえていないらしい。
「ふ、気持ちよさそ」
うつ伏せに寝ている藤原の、栗色の前髪を指先で梳いてみる。さらさらと指先からこぼれ落ちてまぶたを掠めた。ぴくりと動いて、少しだけ眉間にしわを寄せると再び規則正しい寝息を立て始める。
見てるだけじゃやっぱり我慢できなくて、うずうずしてきて唇を寄せていくと小さく呻いた藤原が寝返りを打って枕を抱きしめる。
「……すけさん」
起きてしまったのかと一瞬焦って、近づいた体がぴたりと止まる。
「藤原?」
いまいち聞き取れなかったからもう一度言って欲しくて、指先で唇を押してみると逃げるように枕に顔を埋めてしまった。
「ん……、けーすけさん」
思わずニヤける。
あの藤原が、オレの枕に顔を擦りつけて、寝言でオレの名前を呼ぶなんて。
ゆっくりと藤原の腕から枕を取り上げて、代わりに体を横たえた。
藤原の首筋に頭をつけてぎゅっと抱きしめると、藤原も枕を抱くようにオレを抱きしめてきた。目を閉じて藤原の匂いや熱を全身で感じて受け止める。
「メシ、できたぞー」
いつまでもこうしていたいしいっそ昼飯なんて後回しでいいやって思うけど、せっかく作った冷やし中華がもったいない。今日のは結構、自信作。揺さぶって、声をかけてみたら抱きしめてくる腕に少しだけ力が入った。
「……早く起きないとオレの昼飯がおまえになるぞ」
首筋に軽く歯を立てると、Tシャツ越しに伝わる鼓動が少しだけ速くなった気がした。
「起きてるのか?」
顔を上げてみると、藤原は薄目でオレを見下ろしている。目が合うと慌ててオレの頭を抱えて視界を覆った。オレの髪に指を差し入れてくしゃくしゃにかき回し、鼻先を埋めてくる。
どう考えても誘ってるだろって思って、その期待に応えるべくTシャツの裾から手を差し入れて背中を撫でまわす。鎖骨を舌で辿り首筋に吸い付くと、藤原が小さく喘いだ。
「……おまえね」
「け、啓介さんがわるい」
「言ったな?」
有無を言わさずに唇を塞いで舌を絡める。苦しそうに眉を寄せても、逃がしてなんてやらねーからな。
「は、……ァ、んんッ」
わざと音を立てて吸うと、恥ずかしさに震える藤原がぎゅっと目を閉じた。その隙にTシャツを胸元まで捲り上げて、剥き出しになったそこにかぶりついた。舌で捏ねて、吸って、赤く色づきしこったその周囲も舐め上げる。
堪えようとして抑えきれなくて、ひっきりなしに上がる藤原の声に煽られて体の中から熱が高まっていく。弱弱しい力でオレの肩を押し返す手を取り指を絡めて指先に口づけ、もう一度胸から腹にかけて舌を這わす。
──ぐう。
「…………」
ムードも色気も吹き飛ばしたその音に、舌先を出したまま間抜けな顔で藤原を見上げると、今までよりはるかに真っ赤になって固まっている。
「……すいません」
申し訳なさそうに笑うその顔に、思わず噴き出した。
「なんだよ、すげ、お約束の展開……くくッ」
「す、すいません、あのオレ、なんか、腹減っちゃって」
その一言にとうとう耐えきれず大声で笑って、涙目でヒーヒー言いながら藤原の乱れた服を直してやって、深呼吸して息を整えると曇った顔中にキスをした。藤原はよほどバツが悪かったのか目を閉じて大人しく唇を受け止めている。
これ以上はやばいかも、と気を取り直して藤原の手を引いて起き上がり、部屋のドアへ向かう。気まずい空気が背中から伝わってきて、そんなことで落ち込む藤原がかわいくて、しょうがないから明るく話題を変えてやる。
「今日の昼飯は冷やし中華だぜ」
「わ、やった。オレ麺類好きなんです」
ホッとしたような声に、口端を上げる。
「麺が何だって?」
「え? 好きです、って──あ」
振り返って顔を寄せ、両手で藤原の頬を包んで視線を合わせてじっと見つめる。少しだけ緊張した様子で瞬きを繰り返す藤原のデカイ目に、オレの顔が映ってる。
「オレもすっげー好き」
真っ赤になったその顔は、オレの言葉の意味を理解したってことでいいんだな?
「カワイイな、藤原」
「か、かわいいとか言うなっ」
照れ隠しの言葉も、その言葉とは裏腹にオレの手を握りしめる熱い手も、全部がオレを惹きつける。
メシ食ったらたぶん藤原は眠くなるから、そしたら一緒にひと眠りして、その後は空色の中でこのキスの続きを思う存分。
2012-07-11
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