ディナー 2
エントランスに設置された大きなアクアリウムを、藤原は意識だけはこちらに向けて、興味深そうなフリで眺めている。オレはそれを横目に、空き部屋ばかりのパネルの中から適当な一室を選んで藤原を文字通り連れ込んだ。
外観と同じくバリだかどこかのリゾートホテルを模しているような部屋は、よくあるホテルと同じようにソファとベッドが置いてある。50インチくらいの壁掛けテレビはカラオケもゲームもし放題だ。
ただ、ソファは壁に向けて設置してあり、そこには埋め込み型の水槽があって、コバルトブルーの綺麗なルリスズメが青い光の中を泳いでいる。
熱帯魚じゃなくて海水魚ってセンスは嫌いじゃない。だが今はそんな水槽に気を取られてる時間ももったいない。入口でしていたのと同じように水槽を覗き込んでいた藤原を振り向かせて、腰を抱き寄せた。
「あ、き、きれいですね、魚」
「そうだな」
何度体を重ねても相変わらず恥ずかしがってる藤原は案外かわいい。そろそろ慣れてくれてもいいのにと思いつつも、こんな新鮮な反応を見せる藤原でいてほしいとも思う。
青色の淡い光を背にした藤原にキスをしたら、大人しく目を閉じて、オレの背中に手を回してきた。唇を軽く啄んだり吸ったりしながら、抱きしめる腕の力を強めていく。
だんだんと息が乱れていくのを自覚して、それがオレだけじゃないことにも安心して、ぎゅっと抱きしめてキスを深めていく。膝の力が抜けた藤原の目はどんどん欲を孕んでいる。
水槽の前を陣取るように置かれたソファに藤原を押し倒せば、離れた隙間を埋めるように手が伸びてくる。藤原に覆いかぶさるようにして舌を絡ませ、熱い兆しを見せ始める下腹部を押し付け合った。
吐息が乱れてもなおキスを続ける。藤原とのキスはなぜだか止め時が掴めなくて、毎回夢中になっちまう。
藤原も嫌がらずっていうかむしろ蕩けた表情を見せてくれるから余計に、飽きもせずに唇を塞いで中を探って目の前の体をきつく抱きしめる。
苦しそうな息を吐きながら、藤原はオレのシャツに手をかけた。音もなく釦が外されて、鎖骨の辺りを藤原の指先が撫でていく。ゾクゾクと肌を走る小さな電流みたいな刺激に思わず口端を上げた。
見上げてくる藤原にキスをして、肌蹴たシャツをこれ見よがしに脱いだ。息を飲む藤原も自分でTシャツを脱ぎ捨てて、羞恥心を堪えるような表情を見せた。
「その顔、すげーそそる」
指先で赤い頬を撫で、後頭部を引き寄せるようにしてまたキスをした。藤原の手のひらの感触を背中で楽しみながら舌を絡ませる。触れ合う肌から伝わる熱に浮かされていく。
狭いソファからベッドに移ってもまだキスを繰り返すオレを、藤原はいい加減にしろと言わんばかりの目で見上げてきた。
「藤原とキスすんの好きだから止まんねーんだよ」
唇を触れさせたまま言い訳のように囁くと、じわじわと耳まで赤く染まり上がっていく。かわいいとうっかり口に出しそうになって、オレはごまかすようにまた唇を押し当てた。
藤原にはカワイイって台詞は禁句だ。言わずにいるのは辛いもんがあるけど、下手すりゃ帰ると言いだしかねない。せっかく朝まで一緒にいられるチャンスだ。フイにするのはオレが可哀相だ。
「舐めてやりてえとこだけど、今日はキスしてたいからまた今度な」
藤原の脚の間に手を差し入れ、すっかりその気になっているソコをジーンズ越しに撫でてやる。あっと小さく喘いだ藤原は慌てて声をかみ殺した。
我慢なんかしないで出していいのに。むしろ聞かせてくれと何度言っても、藤原は頑なだ。そんな理性さっさと飛ばしちまえと思うのに、素直になれずに理性との狭間で揺れる藤原を見るのも好きだったりする。
意地張って必死に声を抑えようとしてるのも、箍が外れてめちゃめちゃ素直に感じてくれるのも、つまり藤原がどう足掻こうが、オレにはどんな藤原もたまんねーってことなんだよな。藤原は分かってねえみたいだけど。
ジーンズとトランクスを藤原の足から抜いて、天を突いているソコを握りこんだ。快楽を期待する気持ちには抗えないらしい藤原はすっかりオレに身を任せている。首筋や肩口にも唇を這わせながら手を動かす。
浅い呼吸を繰り返して無意識に脚を閉じようとしている。膝で割り入ってそれを阻み、先走りを塗り広げるみたいに亀頭を刺激する。のけぞって晒された顎を甘噛みし、薄く開いた唇を塞ぐ。
遠慮がちに差し出された舌を絡め取ってキスを楽しむ。しっとり吸い付く肌が気持ちいい。素肌の感触を指先で確かめつつ、藤原の下半身に手を伸ばしていく。
「啓介さん、あの……」
うっかりとまたキスに夢中になっていたオレは、慌てて藤原に視線を止めた。すごく気まずそうではあるが、欲望の灯は消えてないみたいだ。
「藤原?」
口は開くものの、肝心の言葉が出てこない。え、まさかキスばっかするならもうやめろって言いたいのか? オレはそんなことを考えて若干血の気が引いてきた。
「悪ぃ、焦らしてるつもりは」
「あ、あの!」
オレの言葉を遮るように藤原が声を上げた。が、また、もごもごと口に何か詰まってるみたいに押し黙ってしまった。
「どうした?」
「引かないでほしいんですけど、その……」
藤原の顔がみるみる紅潮していく。
シーツに手をついて藤原を見下ろし、その言葉の続きを待った。
「じ、じゅんび、してきた……んで」
「え」
片手で顔を隠し、視線を外しながら藤原が爆弾発言をしたのを、オレの耳は聞き逃さなかった。
そして限界まで羞恥を堪えているだろう藤原を目の前にして、痛いくらいに一気に股間が張りつめてくる。ぐっとシーツを握りこんで腹に力を込めてなんとか暴発を耐え、深く息を吐いてから藤原を見つめた。
「いいのか」
長い長い沈黙の後、藤原は目を閉じて小さくうなずいた。オレはそれだけで射精しちまうかと思った。ローションを猛りきった自分のソレに塗りこめて藤原の中にゆっくりと押し込んでいく。
苦しそうに喘ぐ藤原を抱きしめて、体を密着させながらキスをする。繋がったそこが馴染むまではと考える理性と、めちゃくちゃに抱いてしまいたい欲望が鬩ぎ合っている。自分がすごく興奮状態にあると、冷静に分析するオレがいる。
「くっ……」
腰から背中にかけて走る快感に小さく息が漏れ、体を起こして天井を見上げる。じわりと汗が浮かんでこめかみを伝った。気を張っていないとすぐにでもイってしまいそうだ。
「藤原」
「は、い」
「あとでたっぷり怒っていいから今だけ言わせて」
「え?」
「すっげーカワイイ」
「け、啓介さん……ッ!」
「おまえがここまでしてくれてさ、可愛くて仕方ねーよ。めちゃめちゃ嬉しい」
藤原はこれでもかってくらいに恥ずかしそうに顔をそらせて、ぎゅっと目を閉じている。だけどオレのを締め付けるその強さで感情は伝わってくる。
「なぁ、オレ今すげー興奮してるの分かる?」
オレのが収まってる辺りを撫でながら、何とか気を逸らそうと内心は必死だ。藤原のモノも重力に逆らって先端からは先走りが肌に零れ落ちている。
藤原のを握りこみ上下に扱くと嬌声が上がる。鼓膜への刺激に興奮冷めやらぬって感じで手が止まらない。藤原の赤い顔も涙目も、首筋に回された腕も、全部がオレを煽ってくる。
噛みつくようなキスをして、本能のままに腰を振る。藤原を気持ちよくさせたいのに、オレばっかりよくなってる気がする。快感を追いかけて目の前に火花が散る。
藤原の中に欲望を注ぎ込んだのと腹の間に生温い液体が迸ったのはほぼ同時だった。
「最高だった……ありがとな」
息を整えながら囁いて、前髪に隠れた額に唇を落とした。その感触に藤原がふっと息を吐いて柔らかく笑う。
「ごちそうさまです」
そんな台詞のあとに藤原はオレを抱き寄せて頬にキスをしてきた。甘い刺激が腰を直撃する。藤原の中でどんどん形を変えていくソレに、藤原は少しばかり顔を引きつらせている。
だってしょうがないだろ。藤原がかわいすぎるんだ。そんな言葉を飲みこんで、精いっぱい甘く囁く。
「おかわり、いいよな」
「え、そんな、啓介さ……ちょっと待っ、あぁッ!」
何杯おかわりしたかは、オレとルリスズメだけが知っている。
2019-03-21
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