春風 2
服を脱ぎ捨てながら、啓介は拓海をバスルームへと連れ込んだ。
「動くなよ藤原」
「啓介さ、……ぁッ」
何度もキスをして、背後から抱きしめたまま壁に手をつかせて立たせると肩口や背中に舌を這わせる。
降り注ぐシャワーで体を包んでいた泡が流れ落ちていく。ぴくぴくと跳ねる拓海の背中を飽きもせずに辿る啓介も、息が弾み始めている。
脇腹を撫で、胸の突起を押しつぶすように捏ねながら、肩甲骨や背骨のラインまで丁寧に舐め回す。白い背中に噛みつくように吸い付くと拓海は堪えきれずに嬌声を漏らした。
啓介は背中への愛撫をゆっくりと腰骨のほうへ移動させ、両手も同じように胸元から下ろして脚を撫でる。膝をつき、尻の丸みを柔らかく噛んで舌でくすぐると、拓海の体は期待に打ち震えながらそれでも必死に壁に手をついて耐えている。
「あっ、啓介さ……やめ、それはいやです、いやだッ」
「けっこう気持ちイイらしいぜ」
啓介は拓海の制止も無視して尻たぶを割り開いてその奥の窄まりへと口づけると、舌を這わせた。
「うあ、や、やだって……汚、ぁ」
「ちゃんと洗ってやっただろ」
拓海の手をかわしながらも攻める手は止めずに、脚の間で震える陰茎にも刺激を加える。ゆるゆると扱きながら後孔へ舌と同時に指を埋めると、嫌がる言葉とは裏腹に、拓海のペニスは快感のしるしをこぼし始めた。
「啓介さん、おねが、い……です、それ、は、やだッ」
振り返った拓海は耳や肩まで赤く染め、涙を流していた。
啓介は尻をひと噛みするとそのまま窄まりへ舌を差し込んだ。悲鳴のような声を上げた拓海の背が大きくしなり、震える膝が崩れ落ちた。それでもなお啓介は拓海を追い上げていく。
「啓介さん、啓介さんお願い……ッ」
懇願する拓海の双丘から顔を上げると拓海の体を返し、脚の先から膝、太ももまでゆっくりと口づけながら膝の裏に手を入れて持ち上げる。
啓介の眼前に秘所を晒すようにして体を折り曲げられ、拓海はますます羞恥に襲われる。
「啓介さ、もしかしてまだ怒ってるんですか、ぁッ」
「そんなんじゃねえよ。けど、オレの愛を知れよ藤原」
啓介は笑顔でそう言うと拓海の抵抗をねじ伏せるように体を固定し、ねっとりと視線を絡ませながら拓海の中に舌を差し込む様を見せつけた。後ろへの愛撫と当時にペニスも扱くと小さく悲鳴を上げ、これ以上ないほど紅潮した顔に白濁が飛び散った。
啓介が拘束を緩めると、力の抜けた拓海の脚が崩れるように倒れ、乱れた息に胸が大きく上下する。啓介は濡れた耳や首筋に触れるだけのキスをしながら吐息だけで囁いた。
「気持ちよかった?」
拓海は赤い顔のままキッと啓介を睨みつけると起きあがり、シャワーヘッドを掴んで啓介の顔めがけてお湯を浴びせかけてくる。
「信じらんねぇ!」
「イッテェ! 何すんだよ鼻に入ったじゃねえかバカッ」
啓介は涙目のまま痛みに耐えつつ拓海の手からシャワーヘッドを奪おうと手を伸ばした。
「バカは啓介さんだろッ」
反論すれど口元に叩きつけられる水流でガボガボと言葉にならない言葉を返しながら拓海を見ると、その顔は涙でぐっしょりと濡れていた。
「何考えてるんですかッ」
「藤原……そんなに嫌だったか?」
力の抜けた手からシャワーヘッドを取り上げてぎゅっと抱きしめれば、裸の背に拓海の腕が回され、首筋に擦りつけるように頭を押し付けてくる。
「おまえのこと気持ちよくしてーだけじゃん」
「あ……あんなこと、してもらわなくてもオレは十分……」
甘えるようなしぐさに、啓介は柄にもなく胸がキュンとした。それと同時に、嫌悪感があったわけではなさそうだということにほっとした。
湿った髪を撫で、赤い耳朶や頬に唇を寄せた。
「藤原、ベッド行こ」
猛りきった熱い楔を拓海の太ももに擦りつけながら囁くと拓海は息をのんでゆっくりと顔を上げ、啓介の頬や顎に口づける。
啓介はそれに応えるように頭を傾け、薄く開いた唇に舌を差し込んだ。舌を絡ませ口腔内を堪能しているとゆっくりと拓海の手が下り、啓介の昂ぶりに触れ、ぬめりを塗り広げるようにして扱いてくる。
腰を引いても拓海は譲らず、ついには両手で包み込んで擦り上げた。
「あ、ば、……っか、おまえ、……くッ」
啓介の体がびくりと震え、快感に堪えきれずに拓海の腹へと射精した。
荒く息を吐きながら壁に手をついて閉じ込めるように拓海を囲むと、当の本人はぎゅっと目を閉じたまま口づけて啓介の舌を吸い、絡め取る。くちゅりと音を鳴らして離れた唇は透明な糸を引いていた。
目の前の顔は朱に染まりあがっていて、煽るように視線を絡める。啓介は拓海の手を引いてバスルームを出るとおざなりに体を拭いてベッドへ組み敷いた。
「啓介さ、ぁ……ン、ふっ」
言葉まで奪い取るようにキスをして、熱い体を抱きしめる。
「は、ぁ……あ、あッ」
拓海の肌を啄みながらゆっくりと手を移動させていく。再び熱を取り戻した場所が啓介の手技に涙をこぼしている。
くちゅくちゅと音を立てて扱くと拓海の体が腕の中で魚のように跳ねた。キスであやしながら震える膝を立たせて奥の窄まりへと指を伸ばす。
「もうだいぶ柔らけーな」
啓介の一言に、拓海の頬はさらに赤みを増した。その顔を隠すようにしがみつく拓海をうつ伏せにするとうなじや肩口、背中にかけてねっとりと舌を這わせた。
腰のあたりまでいくと、拓海はとっさに啓介の腕を後ろ手に掴んで不安そうな目を向けてくる。
「もうしねえよ」
今日のところは、という続きの言葉を飲み込んで笑いかけ、振り向いたままの拓海に軽いキスを送る。
枕元のゴムを手に取り素早く装着すると、先端を小さな入口に擦りつけるようにしてローションを垂らしながら塗りつけていく。何度も往復させていると、そこは啓介の侵入を待ち望んでいるかのようにヒクヒクと反応をしめした。
「あ、……ッ」
枕に顔を伏せた拓海のくぐもった声が苦痛を帯びたそれに変わらないのを確かめながらゆっくりとペニスを埋めていく。
小刻みに揺らして侵入し、半分くらい入ったところで一度腰の動きを止めた。啓介の与える圧迫感を逃がすように、拓海は大きく息を吐く。スプリングを軋ませ、上半身をかがめて背中にキスをすると拓海の内部が啓介を締め付けた。
「……ッ、さっき出してなかったらやばかった」
赤い耳に息を吹きかけるように囁く。びくりと震える耳の穴に舌を差し込み重点的に攻めていくと、拓海は堪えきれず声を漏らした。
「もっと……奥まで入っていいか」
答えを待たずに楔を突き立て、隘路を穿った。シーツを握りしめる拓海の手を包んで、指を絡める。握り返してくる強さに、啓介の胸は締め付けられた。
「こっち向いて、藤原」
顎を上げた拓海の目元に浮かんだ涙を舌ですくう。
苦しい体勢で唇を合わせながら胸元に伸ばした手で乳首を捏ね、腰を打ちつけては焦らすように動きを止めて背中一面を啄む。入れたまま体位を変えると、拓海は羞恥と快感に耐えきれず甘い息を漏らした。
啓介は拓海と同じように横になり、背後から抱きしめながら拓海の首筋に口づけた。ぎゅっと抱きしめたまま腰を押し付けると、漏れ聞こえる拓海の声がほんの少しだけ大きくなった。
後ろからじっくりと観察しながら、空いた手で拓海の胸やペニスを愛撫すると、素直に快感に身を任せてくれているようだった。密着した体は熱を持って、汗も浮かんでいる。
「好きだ」
耳元で囁くと拓海の体が大きく震え、締め付けがきつくなった。手の中の拓海も少し硬度を増し、それを握る啓介の手に拓海の手が添えられた。
「それ、……ナシ」
「なんで。気持ち良くねえ?」
「よ、……良すぎて、すぐ出ちまいそう」
啓介は自分の耳を疑いながら、真っ赤に染まる目の前の体をじっと見つめた。そのままうなじから耳の後ろまで舐め回し、さらに亀頭を手のひらで包んで刺激する。
「好きだぜ、藤原」
「あっ、……ッ、……ン、ンっ」
啓介が刺激を与えるたびに拓海の内部は蠢き、中にいる啓介をぎゅうぎゅうと締め付ける。
「あーすげ、気持ちイイ」
こぼれ落ちた啓介の独り言に、拓海が上半身をひねって振り返り、啓介の顔を引き寄せた。ねだるようなキスに応え、拓海の体を突き上げて揺さぶりながら口づけを深くしていく。とろりと蕩けた表情で啓介を見上げてくる拓海に、思わず苦笑いが浮かんだ。
「これ言ったらおまえいっつも怒るけどさ、……すげーカワイイ」
「言う、な……ッ」
真っ赤な顔を隠す拓海をうつ伏せに組み敷くと、太ももを開けないように外側から挟み込んだ。
脇腹を撫でながら耳元に唇を寄せる。
「肝心なことはさ、ちゃんと伝えたいだろ」
くしゃりと髪をかき回すと、啓介の意図を察してか拓海はじっと何かを考えているような表情で口を噤んだ。
啓介は腰を振りたくってしまいたい衝動と必死に闘いながら、拓海の言葉を待っている。
「…………オレ、……気づいたら啓介さんのことばっか考えてます」
「……ああ」
「頭ん中が啓介さんばっかりで困ってるんです」
「藤原」
「目ぇつぶってても浮かんでくるし夢の中にも出てきて大変なんです」
真っ赤な顔でまくしたてながら見上げてくる拓海は唇を尖らせていて、だけどそれが照れている顔だと啓介は知っている。
普段の彼らしからぬ告白に、啓介も少しばかり戸惑いを覚えた。けれども嬉しいという感情がそれを遥かに凌ぐ勢いでこみ上げてくる。耳介を舐め上げ熱い息を吹きかける。
「愛されてんのな、オレ」
嬉しい、好きだと何度も耳元で囁いて、触れるだけのキスを繰り返す。そのたびに拓海は小さな喘ぎ声を漏らしながら、だけど「言うんじゃなかった」と可愛くない台詞を吐いた。
「なんで。オレすっげー幸せ」
とどめの一言を放つと拓海は照れくささに耐えきれず、枕に顔を埋めた。
「も、もう分かったから、早くどうにかしてくださいよ」
「ったく、……もっとかわいく誘えねーかなぁ」
覆いかぶさるようにキスをしてから体を起こすと、ゆっくりと抽挿を始め、徐々にストロークを大きくしていく。二人分の体重のせいかスプリングの弾みが大きく、拓海の体がバウンドするように上下して深い部分まで啓介の熱を飲み込んでしまう。
啓介は根元まで咥えられ、過ぎる快感に眉を寄せながらも腰の動きを止められず、射精感を必死に抑え込む。
「ごめん、止まンねぇ」
うなじに噛みつくようにキスをし、拓海の体を抱きしめて律動を速めていく。
「あ、あ、けい、すけさん……速ぁ、ま、まって……んぅッ」
拓海は啓介の腕に必死にしがみつき、啓介はそんな拓海の耳朶を口に含みながら獣のように腰を振る。密着した体は熱く、汗が流れ落ちていく。
「啓介さん、お願い、……待ってくださッ、ぁあッ」
内部の一番敏感な部分を熱塊が擦り上げ、拓海は掴んでいた啓介の腕に思わず爪を立てた。その刺激に、啓介はやっと動きを止めた。
「はぁっ、わりぃ、痛かったか?」
荒い息のまま、汗で張り付いた拓海の前髪を払いながら見下ろすと、拓海が自ら啓介のペニスを抜いて仰向けになった。そして啓介の首に腕を絡めて引き寄せ、口づける。
欲を含ませた目で無言で見上げてくる拓海に、啓介はふっと力を抜いたように笑った。
もう一度拓海の中に自身を埋め、優しくキスを落とす。
「おまえ、本当にカワイイな」
文句を言わせる隙も与えず唇をふさいで、絶頂へと追い上げていった。
ガラス張りの広いバスルームで、啓介は拓海に髪を洗われている。拓海は向い合せのままでは洗いにくいのにと口を尖らせながら、それでも啓介の頼みを受け入れてくれた。
啓介が時折ちょっかいを出すようにキスを仕掛けるとそのたびに手が止まり、啓介が頭に泡を乗せたまま説教を受けること数回。啓介の髪をやっと洗い終えた拓海はセックスより疲れることもあるのかとぐったりとバスタブのふちにもたれかかった。
「あとで藤原も洗ってやるからな」
「べ、別にいいです」
二人で入るには十分な広さがあるのに、たっぷりのお湯が張られたその中で啓介は拓海を引き寄せて背中から抱きしめる。拓海はほっと息を漏らした。
「帰りに夜桜見に行ってそれから飯だな。あ、オレのおごりな」
「えーいいですよ、そんなの悪いです」
手作り弁当のお礼だからと頬にキスをしながら囁けば、頬を赤く染めながら啓介の腕から逃れようとする。当然のように連れ戻して腕の中に閉じ込める。
「体大丈夫か?」
「……別に平気ですよ」
ちょっと無茶してしまったかと反省の色を浮かべて拓海を見やると、花がほころぶように笑った。笑顔につられてキスをしようとすると、拓海の手に遮られた。
「ぶっ」
「これ以上は、だめです」
「キスくらいいいじゃねーか。ケチ」
啓介のキスを拒むのなんて拓海くらいなものだと口を尖らせる。逃げる体をがっしりと捕まえて迫ると、呆れたようにはぁとため息をついた。
「……またしたくなったら困るんで……だめです」
「もうしねーって。な? キスだけなら別にいいだろ?」
情けなくも年上の自分がなりふり構わずねだる姿にほだされてくれないかと期待をしてみても、拓海は頑なにかぶりを振り、のぼせたのかと思うくらい赤い顔で呟いた。
「オ、オレが、我慢できねえってこと、……です」
「────。もー、今日のおまえ、本当に読めねえな!」
お湯が溢れるのも構わず、啓介は豪快に拓海の体を抱き寄せた。
2014-04-17
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