ほてる
言いたいことがうまく言葉にならなかったり、思うように気持ちが表に出てこなかったり、昔から、喋るのは得意なほうではなかった。
高校を卒業して社会人として働き始めた今も、プロジェクトDのメンバーとして飲み会に参加している今この瞬間も。
隣に座った啓介との会話が盛り上がらず、ウーロン茶を片手に焼き鳥の串を量産している拓海は、どうやって話を広げていけばいいのか内心では絶望に暮れていた。
「恋人」としての彼とふたりだけで過ごすなら言葉がなくともたいして困ることはないのに、公にはできない関係が思った以上の足枷となって皆の前で平静を装うのに精いっぱいなのだ。
動くたびに触れる肩や腕にいちいち反応し、少し距離を開けると啓介がその分詰めてくる。拓海がメニューを広げれば、肩に顎を乗せるほど近づいて一緒に覗きこむ。
啓介の立ち上げた毛先が頬をくすぐり、この人はいちいち自分を困らせたいのかと困惑した視線を送れば、悪いとあっさり体を引いていく。振り回されて、どっと疲れがこみ上げてくる。
「啓介さん、この前見に行ったサーキット、また連れて行ってくださいよ」
拓海が暴れる心臓を宥めているところに、ケンタは敬愛する啓介の前に腰を下ろしながらそう言った。
「ああ、あれな。いいけど、次いつだったかな」
「もー、頼みますよ啓介さん」
その会話を聞きながらもくもくとねぎまと皮を食べ終えて、今度は手羽先にかぶりついた。
指先についた甘辛いタレを舐めていると視線に気付き、視線の方向に顔を動かすと啓介がじっと拓海を見つめている。
「…………」
視線を外すこともできずに目が合ったままちゅ、と指先を吸い、今度は口端についたゴマを舌で取る。ケンタに呼びかけられた啓介は、はっとしたように顔を背けると投げるようにおしぼりを渡してきた。
「……どうも」
軽い会釈で胸元に飛び込んで来たそれを拾い上げ、口元と手を拭った。
「藤原は啓介さんと行ったことねえよな?」
「……はい」
「だよな。へへ。啓介さん、約束ですよ」
拓海の答えに嬉しそうな顔を見せるケンタは勝ち誇ったようにフンと鼻を鳴らした。正直なところあからさまなその顔と態度がおもしろくなかったが、自分より啓介との付き合いが長いケンタに対抗心を燃やしたところでどうしようもない。
サーキットはなくても、啓介と出かけたことくらいあるよと頭の中で毒づきながら、拓海は黙ったまま手羽先をもうひとつ頬ばった。
啓介が席を立った隙に、ケンタは拓海の横に移動してきた。ついさっきまで啓介が座っていた場所に、我が物顔で胡坐をかいている。
「藤原」
「……はい」
「この際だから言っとくけど啓介さんはオレのこと舎弟みたいに可愛がってくれてんだからな」
「……はぁ」
この際もどの際もケンタが食ってかかってくる理由が見当たらない。
以前に雨の妙義でバトルを申し込まれたときも、やたらと頭にくる物の言い方をする人だと思ったことを思い出す。
「ちょっと構ってもらえるからって、啓介さんから好かれてるとか対等とか、友達みたいな顔すんなよ」
「オ、オレ別に啓介さんと対等とか友達とか、そんな風に啓介さんのこと見たことないですよ」
当たらずも遠からずない言いがかりに反論しようと顔を上げると、どうやら酒に酔っているらしいケンタの顔は赤く、目も据わっている。
友達どころか対等などと、自分でも釣り合っているなんてことは思わない。だけど啓介とは互いに刺激し合い、高めあっていければいい。啓介にとって自分がそういう存在になれたらいいとは思う。
友達という関係を飛び越えて恋人として付き合い始めてしまった今でも、少なくとも拓海にとっては、走りの面だけでなく、あらゆる面で追い付きたいと思う存在なのだ。
「そうかよ。今度はおまえも誘ってやろうと思ったけど、いいや。止めた。この話はナシな」
頭上から不機嫌に曇った啓介の声が降ってくる。トイレから戻った啓介は拓海の隣ではなく、ケンタが座っていた斜め向かいに移動した。
「えっ、啓介さん、うそでしょ?!」
「おまえもだよ、ケンタ。藤原に下らねえこと言ってんじゃねえぞ」
まさか今の会話を聞かれていた上にとんでもない誤解を受けてしまうなんて、間が悪いにもほどがある。違うんですと咄嗟に否定しようにも、うまく言葉が繋がらない。
涙声で縋るケンタ共々手のひらであしらわれ、拓海はそれ以上何も口にすることができなかった。
「じゃあな、気をつけて帰れよ、藤原」
勘定を済ませた史浩に声を掛けられるまで、拓海は啓介にどう弁解するべきかということばかりを考えていた。
「あ、はい、ごちそうさまでした」
焦点も合わずに見つめていた地面から史浩へと視線を泳がすとその隣には啓介がいた。
憮然とした表情のまま拓海を見ようともしない。こんな別れ方で、いいと言うのだろうか。
「タクシー拾うけど、啓介も一緒に乗って行くだろう?」
「ああ」
短く答える啓介の顔はいまだ逸らされたままで、拓海は思わず啓介の腕を掴んだ。
拓海の行動に瞠目したふたりの視線を浴びながら、きゅっと下唇を噛む。
「あ、あの、啓介さんはオレが送って行きます」
「いいのか? 逆方向じゃないか」
「いえ、あの、えっと大丈夫です。ちょっと話したいこともあるんで」
申し訳なさそうな史浩の問いに真剣な顔で答えると、ダブルエースの間に流れる空気に気付いているのか、じゃあ頼むよと穏やかな笑顔を見せ、啓介の背中をポンと押して大通りのほうへと歩いて行った。
「…………」
「…………」
啓介の腕を掴んだまま沈黙が流れる。
ポツポツと雨が降り出し、アスファルトが濃い色で染められていく。
「で、話って何だよ」
小さなため息とともに啓介が切り出した。掴んだ手を振りほどくこともせず、空いた手はポケットに隠れている。
「えっと、……時間、いいですか」
「いいよ」
事後承諾に気まずさを覚えつつちらりと見上げると、啓介は無表情のままでまっすぐに拓海を見つめている。その目に胸が締め付けられて慌てて視線を落とした。
「じゃあ、とにかく車に……」
啓介の腕を引いて近くに停めたハチロクのもとへと向かう。啓介は大人しく腕を掴まれたまま拓海の後ろを歩いている。小雨は降り続き、少しずつ、けれど確実に啓介と拓海を濡らしている。
店から駐車場まではそんなに離れていないはずなのに、思いのほか濡れてしまったのか啓介は助手席に納まるなり大きなくしゃみをして鼻を啜った。
拓海は無言でセルを回し、ハチロクを発進させると高崎とは別方向へと車を走らせる。それに気付いているであろう啓介も何も咎めず、雨が打ちつける窓の外をじっと眺めている。
ふたりでゆっくり話ができるところ、なんて選択肢はそうそう思い浮かばなかった。煌びやかなネオン街の一角にハチロクを停めると、拓海は啓介より先に車を降りた。ゆったりとした動作でそれに続いた啓介を確認し、ロックを掛けると駐車場から続く部屋のドアを開けた。
「脱いでください」
部屋に入るなり向き直り、啓介のシャツに手を掛ける。
「話するんじゃねえのかよ」
「そのままだと風邪引いちまうでしょ」
「おまえは」
「オレはあとでいいです。んなヤワじゃねーんで」
「オレだってそんなか弱いタマじゃねえっつーの」
「さっき、くしゃみしてたじゃないですか」
ぶっきらぼうに言いながらボタンを全部外し終えて前を肌蹴させると、引き締まった腹筋が露わになった。
バックルを外そうと手を伸ばすと啓介は拓海の手を制し、諦めたようにシャツを脱いでバスルームへと向かった。
拓海はついでに自分も服を脱いでハンガーに掛け、備え付けの浴衣を纏って部屋の奥へと足を進める。
この部屋は完全な和室仕様で、畳の上に布団が敷いてある。
布団の横には座椅子がふたつ、座卓を挟んで設置されていて、 きれいな景色を楽しむような窓はないが、旅館のような設えになっている。冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出してから座椅子に腰を下ろした。
どう切り出そうかと考える間もなく啓介が出てきてしまった。啓介はミネラルウォーターを飲みながら向かいの座椅子に座ると視線だけで拓海を促す。
掛ける言葉が見つからず、下唇を噛んで立ちあがり、バスルームへと逃げ込んだ。
のぼせる寸前までああでもない、こうでもないと悶々としながら部屋に戻ると、啓介は手のひらを枕に布団に寝転んでアダルトビデオを大音量で流していた。演技なのか演技ではないのか分からないような女性の喘ぎ声が響いている。
お茶を口に含みながらリモコンを手に取ってテレビを消すと、啓介の足元辺りに正座した。浴衣からはみ出した長い脚から徐々に視線を移して啓介の顔を見る。
頬杖をついたまま拓海に視線を合わせた啓介の隣に体を横たえ、唇を合わせた。
「なに、話するんじゃねえのかよ」
啓介は片方の口端だけを上げ、拓海の唇を指先で摘まんだ。
怒っているわけではなさそうだとひとまず安心したものの、余裕のある素振りにムッとして、口元にある啓介の手を握った。
「のこのこついて来たくせに、ここで何するかなんて分かりきってるじゃないですか」
「のこのこって……おまえが連れてきたんだろうが」
「拒否しなかったのは啓介さんです」
押し倒すように啓介の体に覆いかぶさり、唇を塞いだ。舌を絡ませ、唇を吸うと、啓介の大きな手が拓海の動きを止めるように顔を包んだ。
目の前にある切れ長の目は熱を孕んだ、欲望を映し出したものであるのに、キスより先に進ませようとしてくれない。どう伝えれば誤解だと分かってくれるのか、もどかしさに歯噛みする。
「店でのあれは……だってオレ、啓介さんのこと友達としてなんて見れません」
正直な気持ちを告白しながら緩く結ばれた浴衣の帯をほどいて啓介の胸に手を這わす。鎖骨や首筋に唇を落としながら、自らも浴衣を脱いだ。
「オレの中ではすげー特別だけど、分かってくれねーしうまく言えないから体で証明します」
「ふじ……」
責めるように言いながらまた深いキスを仕掛け、すでに勃ちあがり始めたそこを啓介の体に押し付ける。
直に触れ合う幹同士が熱を持っていく。拓海は体をずらし、啓介の下腹部へ顔を埋めるとまだいつもの硬度の半分もないそこを口に含んだ。
「うわ、おま……、いきなりかよッ」
じゅるじゅるとわざと音を立てて懸命に愛撫する。両手で扱きながら、鈴口を舌でくすぐると啓介が熱い息を吐いた。
恥ずかしさで意識が飛びそうになりながら、できるだけ顔を見られないように深く咥えこむと、陰嚢を手のひらで包んでやわやわと転がす。幹の根元にまで唾液を塗り付け、括れた部分から上だけを唇で挟むと割れ目の部分を舌で扱いた。
「あ……すげ、ンなのどこで覚えてくんだよ」
「……ふ、……ン」
覚えるも何も、啓介がよく拓海にする愛撫なのだとはさすがに言えず、慣れない行為の息苦しさに口を離した。
「あ、止めんなよふじわらぁ」
啓介の放つ気持ちよさそうな声にじわじわと体が火照る。
ごくりと喉を鳴らしてもう片方の手を自身の尻へと伸ばし、ゆっくりと啓介を受け入れるそこに指を埋めていく。
「なぁ、オレにもやらせろって」
「啓介さんは、……んッ、何も、しないでください」
「は……ッ、何でだよ、ッく」
拓海は自分の後ろを弄りながら、啓介の雄への愛撫も続ける。啓介の手は時折拓海の髪を撫で、何かを探すようにシーツの上を漂っている。
「今日は、オレがします」
体を起こそうとする啓介を押さえつけ、屹立を跨ぐようにして熱く猛ったそれを入口に宛がった。
「まだ、早ぇ……だろ、おまえの、……っ」
「大……丈夫、です。ちゃん……と準備、した……からっ」
「何言って、う、わ、キツ……ッ」
ずぶずぶと埋まっていく感覚に肌が粟立つ。一番太い部分を過ぎれば、あとは重力に従うだけだ。
「ほら、啓介さんの、オレの中に全部、入っちまいましたよ、……ぁッ」
もうほとんどヤケクソだった。バスルームの中でどれだけ考えても、これ以外の方法が思いつかなかったのだ。
はあはあと荒い息を整えるのもかなわず、啓介の上で腰を揺らす。
「まさか、さっき風呂場でも自分でしてたのかよ」
拓海の下で大の字になったまま啓介が呟く。
「どう、っスか、ちゃんと……気持ち、いい……?」
緊張と痛みで萎えた自身のそこを自ら扱きながら、苦悶の表情を浮かべる啓介を見下ろす。
拓海は肌に汗を浮かべて、はぁと大きな息を吐いた。突如、下から勢いよく突き上げられ、上擦った声が漏れた。
「ああ……ぁッ」
「クソ、藤原のバカ!」
啓介が上半身を起こしたせいで繋がりがさらに深くなり、背がしなった。腰を抱き抱えられ、そのまま後ろに押し倒された。
「オレの楽しみ奪いやがって」
啓介は拓海の腰骨を掴み、隘路を穿つように腰を打ちつけてくる。内壁を擦り上げられる感覚に目の前に火花が散り、思わず啓介の体に手を伸ばす。抱きしめた体の熱に溶けてしまいそうで、夢中でしがみついた。
「啓介さ、んんッ、あ、けーすけさ……いた、ぁッ」
もう出る、というところで啓介は拓海の体から熱塊を抜き去り、律動を止めた。あと一歩のところで空中に放り投げられたような感覚に溺れて啓介を探すと、薄く開いた唇から啓介の舌が荒く侵入してくる。
「んや、……ぁ、あ、ふ」
湿った髪を撫でた熱い手のひらは乳首を掠め、突起を摘まむとしこったそこを執拗に攻めてくる。
きゅっと摘まみ上げると同時に舌を吸われ、ビリビリと電流が走ったように体が震えた。痛いほど吸われた舌が解放され、蕩ける意識の中で啓介の陰茎を探り当てて握るとその手を頭上で戒められた。
「あ、……なん、で」
「オレだってなぁ、友達がいいなんて思ってねえよ」
また舌が絡み、啓介の手が拓海の窄まりへとのびる。啓介の先走りで濡れたそこに指を埋め、蠢く中を探る。一本、二本とゆっくりと指を増やされると重なった唇の隙間から甘い声が漏れる。
拓海の体をうつ伏せにすると、啓介は痛いほどパンパンに腫れあがった自身をもう一度拓海の中へと埋め込んだ。拓海の背にぴったりと胸を合わせて馴染むのを待つようにじっと耐える。
だけどその間も耳の後ろや首筋への愛撫は忘れない。
「ん、んー、は……、啓介さ……、も、やばい、動い……てッ」
苦しい体勢で振り返り、啓介に訴える。
啓介は優しくキスをしながら、続きをねだるように動く拓海の腰を両手で押さえつけ、大人しくなったところで体を起こすと、尻を突きださせるように持ち上げる。
ぎりぎりまで引き抜かれ、一気に限界まで突き立てられて拓海の欲望を示す場所は射精に近いほどの液が零れた。
「うあ、あ!」
「藤原ん中、すげー狭くて……熱い」
シーツを掴む拓海の手は関節が白く、筋張っている。啓介はその筋を見下ろしながらゆっくりと腰を引き、また激しく打ちつける。肌がぶつかる乾いた音の中に、粘性のある音も混じっている。
少し角度を変えて差し込まれると体がびくびくと震え、拓海は中の啓介をきゅうと締めつけた。
「ああ、ここか?」
何度も執拗にピンポイントで突かれ、悲鳴のような声とともに拓海の屹立から零れた精液がパタパタと音を立ててシーツに飛び散った。
「オレも、……ッ、イっていい?」
啓介は拓海の答えを聞く前にさらに腰の動きを速め、一層奥へとねじ込まんばかりに拓海を突き上げ、熱を放出した。
「あ、ぁ……」
啓介の熱を感じながら力の抜けた体をぐったりとシーツに預けると、啓介を中に埋めたままの拓海の体を返された。息も整わないうちに出したばかりの先端を手のひらで擦られる。
「ひ、あ、あ、あ、あッ、それだめ、ダメだってば、啓介さ、や、だぁ……アッ」
ぷしゅ、と勢いよく放たれた液体は啓介の体や顔にまで飛んだ。拓海は痙攣するように震える体を持て余し、零れる涙を止められないでいた。
「拓海」
「ふ、ぅ……いやだって、言ったのにッ」
涙ながらに啓介の胸を叩き、泣き顔を見られたくなくてぐしょぐしょになった顔を乱暴に拭う。
「うん、拓海、ごめんな。オレが悪かった」
啓介は両手の指を絡めて握り、涙に濡れる頬に唇を寄せた。あやすように優しく何度も啄ばみ、落ち着かせるようにぎゅっと抱きしめる。拓海は啓介の背に腕を回し、鎖骨に噛みついた。
「イテ!」
恨めし気な視線を送ると、また悪かったと言って拓海の体を抱きしめた。
肌から伝わる規則正しい心音に昂った気持ちが落ち着いてくると、次第に羞恥心が拓海を襲い始める。もぞもぞと啓介の腕の中で体を動かし、シーツに顔を埋める。
「何だよ、まだ怒ってんのか?」
問いかけに、違いますと顔を振り、ますますシーツを握る手に力がこもる。耳まで真っ赤になった拓海を見て、啓介は背中からぎゅっと抱きしめた。
「ちゃんと伝わったぜ」
その言葉に恐る恐る顔を上げて啓介を見る。拓海の前髪をかきあげて額に口づけると、今度は正面から抱きしめた。
「ていうか信じてねえわけじゃなくてさ、いまいち自信なかったんだよ」
「……啓介さんがですか」
「まあな、だって相手がおまえだぜ」
拓海の背中を撫でながら、何度もバードキスを繰り返す。
「けど、藤原がここまでしてくれるなんて正直思ってなくてさ」
「わ、忘れてくださいッ」
「あんなにえろい藤原、忘れるなんて無理に決まってるだろ」
「あれはオレであってオレじゃないです」
拓海は頭を抱えながらぶつぶつと言い訳めいた言葉を口にする。啓介はそれを全部無視して拓海の肌を撫でている。
「ていうかオレとしては今度は目の前でやってもらいてーくらいだけど?」
「え……ッ」
「ここ、どうやっていじった?」
声のトーンを変えて拓海の脚を割り開きながら膝を差し入れ、尻の丸みに沿って指を這わせてくる。赤く熟れた窄まりを指の腹で撫で、まだ残滓で濡れるそこにつぷりと指先を埋めた。
「ぁ、……ッ」
「こうやって入れたり出したりして……自分の手で感じた?」
「や、やめ、あッ」
「それとも、……オレの手、想像した?」
「ち……違ッ、してな、あぁッ」
見透かされたのかと思った。ドクドクと心臓が激しく脈を打ち、首元まで真っ赤に染まり上がり、拓海の体は小刻みに震えてそれを肯定しているのに、素直にそれを認められない。
啓介は拓海の首筋や胸元を啄ばみながらゆっくりと体を移動させ、臍の横に吸い付いて跡を残すとそのままさらに下降して、拓海の脚の間に体を割り込ませた。
「啓介さんッ」
柔らかいままのそこを片手に乗せると唇を押し付け、根元から先のほうまで唇を動かしながらチュッと吸い、舌を這わせてゆっくりと口に含んだ。
「や、け……すけ、ひゃ……ッ」
前を口淫しながら、啓介の指先が拓海の体の中を蠢いている。逃れようと体を捩るとそれに合わせて啓介も体を動かし、どこまでも追いかけてくる。
これがベッドであれば床に落ちてしまえば逃げられるのに、和室であるこの部屋はそううまくはいかせてくれないらしい。
「オレにも証明させてくれよ」
「や、啓介さ……待っ、ア、まだ、……ぁッ」
出しきって萎えていたはずの拓海のそこは、啓介の愛撫によりすっかり期待に震えて天を向いている。噛み合わない歯がカチカチと音を立て、啓介の口の中に飲み込まれていく熱い塊が今にも弾けそうになる。
「ひ、ぅ……ッ、ぁあっ」
またもあと一歩のところで解放されると、膝の裏を抱えられ、大きく開かれた。ゆっくり、ゆっくりと殊更時間をかけて啓介の熱が体の中へと入ってくる。襞を擦る啓介の形が分かるほどに、隙間を埋められていく。
啓介は肌が密着するまでスピードを変えずに拓海の中へと自身を飲み込ませ、眼下に晒された拓海の体を舐めるように視姦した。
熱い視線に焼かれて体の火照りが治まらず、小さな穴からとめどなくこぼれる液体が拓海の腹を濡らし、肌を伝い落ちてシーツに染みを作った。
「藤原」
「……っ、……ゃ」
啓介に見られていると思うだけで、恥ずかしいほどに体が昂っていく。拓海の思考は敏感になりすぎた体に呑まれ、返事もままならない。上体を屈めて顔を寄せる啓介の背中に腕を回し、されるままくちづけを受ける。
「ぁ、や……ら」
出ていこうとする啓介の腰に脚を絡めたせいで内部が擦られ、一層の刺激になって拓海を震わせた。
「大丈夫か?」
頬を撫でながら耳元で囁く啓介の掠れた声に小さく頷きを返し、目の前にある耳朶を食んだ。お返しとばかりに、啓介も拓海の耳朶に舌を這わせ、ちゅうと吸い上げてくる。
啓介が抜き差しを繰り返すと刺激を感じるたびに奥を締めつけ、それがさらなる快感となって拓海を蕩けさせていく。
「ほんと、エロすぎ」
拓海を抱えたまま体を起こして向かい合わせに座ると、唇を重ね合わせて舌を絡めた。角度を変えて口づけると繋がった部分から漏れ出た液体が湿った音を立てる。
啓介は抱きしめた体を上下に揺すり、拓海の陰茎は啓介の腹で擦られるたびに液を溢れさせる。しとどに濡れたそこを握りこまれ先端の敏感な穴を指の腹で扱かれた。
「あ、は……けぇすけさ、……ぁ、オレ、またッ」
「ん、オレも、出るッ」
これ以上の隙間はないほどに突き上げられて背中が仰け反り、体の奥に迸る熱を感じながら腹の間に何度目かの精を放った。射精しきったところで、拓海の体からは力が抜けていく。
「はぁ……、はぁ」
拓海のぐったりとした体を横たえながら優しくキスをする啓介に、飛びかける意識が僅かに引き戻される。これ以上はもう無理だと体は悲鳴を上げている。
「あ、おい、藤原?」
「啓介さん……」
重い瞼を持ち上げることができずに、そのまま意識を手放した。
2013-10-12
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