スマイル 2
「啓介さん、オレ……」
勢いよく襲いかかったものの、見上げてくる啓介の視線に囚われて言葉が喉に詰まる。それでも視線は逸らすまいと、じっと啓介の顔を見つめ続けた。
「あの、オレ……ひぁっ」
啓介の手が沈黙に焦れたようにTシャツの裾から潜り込み、脇腹を辿って胸元を弄る。両方の突起を指先でつままれ、さらに漏れそうになる声をぐっと堪える。馬乗りの状態から背を屈めて啓介にキスをする。
薄く開いた上唇を挟んで舌先でくすぐり、続いて下唇も同じように舌を這わす。Tシャツの中にある熱い手が背中に移動して引き寄せられるのと同時に、キスが深くなる。
抱きしめられながらキスをされると頭がふわふわとして何も考えられなくなり、ただ夢中で啓介の舌に応える。体の中心に熱が集まる感覚に、無意識のうちに自分の体を押し付けていた。
「は……ぁう、……っ」
「もう、すげーなおまえの……けどオレも」
「んん……っ」
啓介が下からゆるく突き上げるように腰を動かすと、体の芯が厚いジーンズの生地の上から擦れ合い、そのもどかしい感覚に咄嗟にしがみついた。瞼にキスをしながら啓介が呟く。
「オレ、おまえのにおい好き」
「え……って……と、豆腐のにおい、しますか?」
「ちげーよ」
拓海の首筋に舌を這わせながら、背中に合った手は少しずつ下がって尻を掴むとさらにきつく押し付け合う。
「うあ……、……ッ」
「ここなら声、好きなだけ出してもいいんだぜ」
「……ッ、ンッ」
「意地っ張り……」
押し付けたそこが離れないように起き上がり、今度は啓介が上になった。
膝立ちになって拓海を跨ぎ、Tシャツを脱ぐと隠れていた筋肉質な体が露わになる。ジーンズのジッパーを下げたところでその仕草に目を奪われていた拓海を見下ろしながら口角を上げ、
首筋に吸い付いて鼻をスン、と鳴らす。
「……ほら、オレの匂い、移ってる」
「……なっ、なに言ってん、んむッ」
羞恥に顔を染める拓海の唇を塞ぎ、熱い舌を絡める。
口内を愛撫する啓介に翻弄されながら、服に手を掛けられるとまるで脱がせてくれと言わんばかりに自然と腕が上がってしまう。目を閉じていても、口づけたまま啓介が微笑むのが分かる。
Tシャツが顔の間をすり抜けるその少しの間だけ唇が離れ、またすぐに近付いて、上下の唇を優しく噛まれたあとは、ゆっくりと焦らすように舌が入り込んでくる。舌先で上顎をこすられると声が漏れる。
そんなところが気持ち良いと感じるなんて、そもそもキスが気持ち良いだなんて、啓介とこういう関係になるまでまるで知らなかった。
「……は、……ぁッ」
「腰、あげて」
言われるまま腰を上げるとジーンズの中できつくなっていた部分が外気に晒され、フッと息を吹きかけられて膝が震える。
「声我慢すんなよ」
「ん、……あッ、……ッ」
先端や裏側の敏感な部分を熱い舌が這って、強く吸われると背中が弓なりにしなる。達する寸前に啓介の唇が離れ、張りつめた感覚だけが拓海を支配していた。
再び熱い口内に含まれ、先端の割れ目を舌でいじられるとびくりと体が震え、啓介の唾液と先走りの液を頼りに秘所に指が潜り込んで栗大の腺を何度も擦り上げると、嬌声を漏らして拓海が果てた。
余韻に体が震える間に、啓介は身に着けていたままだったジーンズを脚から抜いて拓海に体を重ねた。
「は、はぁ……、はぁ……っ」
「もう入っていいか……?」
「んぅ……ッ」
ほぐされているとはいえ、圧倒的な圧迫感に生理的な涙がこぼれ落ちる。
目一杯押し開かれた体は啓介を受け入れ、息を吐くとぴったりと密着する内壁が蠢くように啓介の茎を包む。
「わりぃ、も、動く……ッ」
呼吸を整えることで精いっぱいで、頷くだけで答えた。
何度も突き上げられ、揺さぶられながら、汗を浮かべる啓介の顔に思わず見入る。拓海の視線に気付いて笑みを浮かべ、動きを止めると背を屈めて顔を寄せ、深く口づけて舌を絡める。
赤い顔のまま目を閉じて啓介の舌を受け入れる拓海の髪に指をすべらせ、指先が耳たぶに触れると伏せられた睫毛が微かに揺れる。
「耳、気持ちいいんだ?」
「あ……、……ンンッ」
耳元で吐息で囁かれると、ぞわぞわと走る電流に産毛が立ち、ぬめる舌が耳を這うと啓介を包む奥がきゅう、と締まる。
「……はっ、藤原、それやべえ」
「あ、あ、そこでしゃべんない、でッ」
耳への刺激から逃れたくて、思わず頭を動かして啓介の唇を塞いだ。キスをしたまま律動を再開した啓介の首に腕を回す。啓介のカリが奥の一点を掠めるたびに先端からは蜜がこぼれ、反射的に締めつけてしまう。
腹の間でこすられていたものを扱かれると目の前で火花が散るような感覚に襲われ、啓介の手の中に白濁を吐きだした。
全身の力が抜け、啓介の首に回していた腕がシーツに落ちる。
痺れたような震えが尾を引いて、絶頂の感覚が治まらない。震える体を力の入らない腕で抱き、視線を彷徨わせて啓介を探す。
「藤原?」
「啓介さ……、……ッ」
抱き寄せられただけでまた体が跳ねる。
「大丈夫か?」
「あ、オレ、なんかヘン、……ッ」
「ここ?」
果てたばかりの先端と、中の敏感な箇所を啓介がさらに刺激する。思わず啓介を遠ざけようと手を突っ張ってみても、やはり力が入らない。
「わりい、オレもあともう少し」
「うあ、も、や、ぁ……!」
これまでに経験したことがないほどの快感が拓海を襲い、啓介は拓海の中に迸りを叩きつける。堪えようのない声と涙が次々にこぼれて射精をしないままもう一度絶頂を迎えた。
指先も両脚も痙攣するように小刻みに震えたままで、啓介に縋りつくのもままならない。
「はぁ……、すげ……気持ちよかった……」
「う、ふ……、これ……な、に」
「たぶん、ドライっつーやつかな。オレも聞いたことしかねえけど」
優しいキスが、拓海の緊張を解きほぐす。それでも啓介が自身を引き抜くその刺激にまた膝が跳ねる。
自分の体なのにまったく別のもののように言うことを聞かず、表面の皮膚から髪の先まで全てが性感帯になったように啓介を感じている。
「っ……わ、ぁあ」
「おまえ、すげえな。ビンカンすぎねえ?」
「う、うるさ……いッ」
太腿をつたう液体にまで反応する体にしたのは誰だと思っているのか。
非難の目を向けると悪びれる様子もなくさらりと髪を撫で、備え付けのティッシュで残滓を拭う。
「あ、あの……啓介さん…………キス、したい」
離れようとする啓介の腕に指を添え、枕に半分顔を埋めながら聞こえないほどの声で呟いた。
「………………」
「………………」
予想していなかった言葉がばっちり耳に届いた啓介は一瞬固まって、その沈黙に拓海がおそるおそる視線を向けると泣きそうな顔で笑う啓介が飛びついて拓海を抱きしめる。
「わぁっ」
「キスだけ?」
その言葉に咄嗟に頷くと、ちぇ、しょうがねえとだけど嬉しそうに言いながら触れるだけのキスを顔中に浴びせる。
「……っ」
両頬を包む啓介の手の熱に体の芯が疼き始める。拓海に訪れる微妙な変化を知ってか知らずか
荒く息を吐く唇の隙間から侵入し、舌を絡めとる。舌先を軽く噛まれ、肩に置いた指先が啓介の肌に薄っすらと赤い筋を残す。
「……いてぇよ」
優しく笑って、またそっと口づけた。
大きめの、スプリングの利いたベッドのくしゃくしゃに乱れたシーツの上に並んで仰向けになって、啓介は煙草をふかし、拓海は目を閉じて下半身の感覚が戻るのを待っている。
「そういやクリスマスっておまえ仕事終わるの遅いのか?」
「あ、たぶんいつもくらいの時間には終われると思いますよ」
「ふーん。じゃあ迎えに行くわ」
当然のように言われ、思わず啓介の顔を見る。
「え……」
「え……って何だよ?」
「え、いやえっと……いいんですか? その、友達とか、予定とか」
「みんなで集まってとかはねえな。相手いるやつばっかだし。ってまさかおまえ、予定入ってるとか言うなよ」
上半身を起こして覗き込んでくるその顔が必死で驚く半面、啓介の予定の中に当然のようにいるのがくすぐったくて、嬉しい。
「あ……いえハイ、大丈夫です、全然、ひまです」
「……ンだよ、焦った。ていうか、おまえ以外誰と過ごすっつーんだよ」
背中を向けて煙草をもみ消しながら口を尖らせる啓介に、自然と笑みが浮かぶ。
「じゃあ、よろしくお願いします。……ついでに……帰りの運転も……」
「おう。任せとけ」
肩越しのその笑顔がいつもの啓介らしくて、そっと手を伸ばした。
2012-12-18
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